バレンタインデー

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 先の通り、俺に色めいた話など、この十七年で一度も無かった。  恋文、チョコ、愛、恋のキューピッド等とは無縁の人生を歩んできたのだ。恋文には大きく「はずれ」と書かれ、チョコにはわさびが入り、愛は埃にまみれていて見るに耐えないもので、恋のキューピッドは俺のハートではなく、心臓のど真ん中に矢を突き立てる。  そんな人生を歩んできたのだ。いや、はいつくばってきた。  悪友の言葉は信じられなかった。 「何をでたらめを」  俺は鼻で笑う。 「でたらめな事があるか」  悪友は今だに食らいつく。 「根拠は? 証拠を見せろ、証拠を」  そう言うと、こいつはグイッと俺の指を押す。 「証拠は去年のバレンタインだよ」  はて、去年のバレンタイン? 「それがどうしたと言うんだ」 「あなた、貰っているだろ」  さすが悪友。こいつの記憶力の悪さと言ったら伊達じゃない。鶏もビックリの記憶力だ。  俺は、去年バレンタインでチョコを貰った覚えなど無かった。  そう伝えると、悪友は「チョコはだろ」と言う。 「あなたは、チョコ以外に何か貰ったはずだ」 確かに貰っている。チョコは無かったが、ケーキを何個か、女子から貰っている。嫌みか、虐めかと嘆きながら、貪り食った覚えがある。 「それがどうした」  グイッと指を押す。 「あれがチョコの代わりだよ」  押し返される。
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