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キッチンはしん、と静まり返りました。
イーディスの頭はぐるぐるにこんがらがっています──アリスの世界?不思議の国?この変な男は、何故アリス姉さんや自分のことを知っているのだろうか──…
先に沈黙を破ったのは、男の方でした。
「…それで、どうしてお前がここに居るのです?」
はっと我に返り、イーディスは男を見ました。男は冷笑を崩さずにこちらを見ています。
内心居心地悪く思いながら、イーディスは答えました。
「えっと…俺にもよく分かんねえけど、なんかうとうとしてたら『誰か』にいきなり腕掴まれて、あの長い穴を落っこちて……それで、目が覚めたらここに居た。
あんたこそ、俺をここに連れて来たヤツとか、何か知らないのか?」
男は肩をすくめて見せました。知らない、ということでしょう。
イーディスは深くため息をつきました。
そんなイーディスをよそに、男は背中に背負った巨大な懐中時計を下ろして、時間を見ていました。
見たこともないほど大きな懐中時計で、その文字盤は直径が2フィート(およそ60センチ)ほどもあります。
腕にも腰にもじゃらじゃらと時計をぶらさげているのに、どうしてわざわざそれを見るのだろう、とイーディスがぼんやり考えていると、男はこちらを向いて言いました。
「さて…お前はいつまでここに居るのですか?晩餐にはまだ早くとも、下準備とは時間がかかるものですからね」
イーディスは始め、男の言っていることが分かりませんでした。
しかし、ふと自分の座っていた所を見て──
「おわぁぁっ!!そうだったぁ!!」
肉切り包丁を見て、気付きました。
そうなのです。色々あって忘れかけていましたが、ここはキッチンでイーディスはその調理台の上に寝かされていたのでした。
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