不思議の国の嫌われ者

6/9
前へ
/55ページ
次へ
   キッチンはしん、と静まり返りました。  イーディスの頭はぐるぐるにこんがらがっています──アリスの世界?不思議の国?この変な男は、何故アリス姉さんや自分のことを知っているのだろうか──…  先に沈黙を破ったのは、男の方でした。 「…それで、どうしてお前がここに居るのです?」  はっと我に返り、イーディスは男を見ました。男は冷笑を崩さずにこちらを見ています。  内心居心地悪く思いながら、イーディスは答えました。 「えっと…俺にもよく分かんねえけど、なんかうとうとしてたら『誰か』にいきなり腕掴まれて、あの長い穴を落っこちて……それで、目が覚めたらここに居た。  あんたこそ、俺をここに連れて来たヤツとか、何か知らないのか?」  男は肩をすくめて見せました。知らない、ということでしょう。  イーディスは深くため息をつきました。  そんなイーディスをよそに、男は背中に背負った巨大な懐中時計を下ろして、時間を見ていました。  見たこともないほど大きな懐中時計で、その文字盤は直径が2フィート(およそ60センチ)ほどもあります。  腕にも腰にもじゃらじゃらと時計をぶらさげているのに、どうしてわざわざそれを見るのだろう、とイーディスがぼんやり考えていると、男はこちらを向いて言いました。 「さて…お前はいつまでここに居るのですか?晩餐にはまだ早くとも、下準備とは時間がかかるものですからね」  イーディスは始め、男の言っていることが分かりませんでした。  しかし、ふと自分の座っていた所を見て── 「おわぁぁっ!!そうだったぁ!!」  肉切り包丁を見て、気付きました。  そうなのです。色々あって忘れかけていましたが、ここはキッチンでイーディスはその調理台の上に寝かされていたのでした。  
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加