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「お誕生日おめでとう、イーディス!」
うるさいな。私は今日、誕生日じゃないのに。
「ハッピーバースデイ、おめでとうイーディス!」
うるさいな。私はちっとも、ハッピーじゃないのに。
「おめでとう、イーディスももう8つになるのね」
母様が優しく、あいつの胸元のリボンを整える。母様はいつだってそう。私には、アリス、リボンが乱れているわって言うだけなのに。
「みんな、本当にありがとう!」
ふわふわのスカートをひるがえし、あいつはにっこり。
可愛い可愛い、イーディス・マティルダ・リデル。
今日はリデル家“三女”の、8歳のバースデイ・パーティ。
「イーディスおめでとう。良かったわね、沢山お友達が来てくれて」
「ロリーナ姉さん」
「イーディスちゃん、おめでとう!これプレゼントするよ。きみのお姉さんと選んだんだ。気に入ってくれると嬉しいな」
「わあ、ハワードさんありがとうございます!ロリーナ姉さんもありがとう!」
姉様と、その婚約者。姉様はあの男を好きなのかな。お家のための結婚だから、もしかして好きじゃないのかも。でも男の方は確かに姉様を好きで、毎日の様に姉様のご機嫌取りにやって来る。
だって姉様は綺麗だもの。
姉様は綺麗でお淑やか。
母様は齢を重ねても美しい。
そして、あいつは。
「イーディスお嬢様、可愛いわよね」
「ええほんと、天使みたいね!明るくて無邪気で、愛想も良くて」
使用人の内緒話。給仕の手が止まっている。
「きっと美人になるわ。ほら、お姉様に似てきたと思わない?」
「あら、あなたの言ってる“お姉様”は、ロリーナ様のことでしょう?だって、アリスお嬢様は──…」
うるさいな。そこまで聞いて、私はパーティ会場に背を向ける。もう沢山、沢山だ。
あいつは可愛い。少しおてんばだけど、パーティに呼ぶ友達も多くて、母様にも父様にも、誰からも愛されて。
私は違う。私の顔は可愛くない。私は暗い。母様も父様も誰も彼も、私を愛さない。
私は、皆の嫌われ者。
「──アリス、姉さん」
後ろで小さく、あいつの声がした。振り向かない。
テーブルからこぼれ落ちたのだろう、美味しそうな丸いクッキーを私は踏み砕いて、会場を抜け出した。
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