1st.audition

2/10
前へ
/21ページ
次へ
はじめまして、私、揚羽(アゲハ)といいます。 これは単なる心の中の独り言に過ぎないので、律儀にルールを守って名字を隠す必要も無いのですが、なんとなく後ろめたいので今は伏せておきます。 年は17。高校2年生です。 通っているのは地元で上から2、3番目の県立の進学校。 まだ2年生なのではっきりとした進路は決まってませんが、何となく将来にやりたいことは決まって来た頃です。 とりわけ頭が良い訳ではありませんし、資格も高校受験で気休めに受けた漢検3級程度しか持ってません。 まあいわゆる、何処にでも居そうな女子高生をやっています。 《では、早速第一オーディションを始めます。準備があるので少しだけ待っていて下さい》 今聞こえているのは、小町さんと名乗る女の子の声です。彼女、ちっちゃくてふわふわしててかぁわいんですよ。 それは良しとして。 私たちはある夏の日、突然このグリーンルームと呼ばれる空間に連れてこられました。 ちょうど学校の終業式の日でしたので、私達はいつも通り朝登校したあと、式の行われる体育館へ移動しなければいけませんでした。 でも、そこで、映像がぷつりと消えたのです。 確か私は友達と体育館に入った、はずでした。ワックスをかけたばかりですぐにキュッと鳴る床に足をかけた所までは覚えているんです。 でも、ほっぺたに冷たい感覚を覚えて目を覚ましたその場所は、どう見てもうちの学校の体育館では無いみたいでした。 黒光りする床の向こうでは、目をまん丸にした私がこちらを見つめています。 因みに、一緒に居た友達の姿は見えませんが、同じ学校の制服を着た人は近くにちらほら見えました(といっても100人は絶対いますけど)。 学年カラーのバッヂから判断して…えーと、みんな私と同じ学年ですね。知り合いも居るみたいです。 「あっ、揚羽ちゃん!」 思わず抱きしめたくなっちゃうような可愛い声が聞こえます。ぱたぱたとこちらに走ってくるのは、どうやら隣のクラスの新菜(ニイナ)ちゃんみたいです。 「新菜ちゃん、どうしたの?」 「もう!この状況でなんとも思わないの?」 この状況、というのは体育館が急に変な空間になったことでしょうか、それともたくさんの高校生位の子たちが床で寝そべってることでしょうか。 「これって、先生達が考えた終業式のサプライズとかかな?」 混乱した新菜ちゃんの頭の中は、どうやらお花畑のようです。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加