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《只今入りましたニュースです。落ち着いた対応をお願いします》
街が橙色に染まり始めた頃、テレビ画面の向こう側で普段にこやかにニュースを伝える夕方の顔が、緊迫した表情で受け取ったばかりの原稿を読み上げる。
《集団失踪事件が全国各地で同時に発生しました》
"速報"と赤い文字が表示される画面。人々は次々と足を止めて目を向ける。ノイズを帯びた通りゃんせのメロディが、普段よりも少しだけ小さく感じた。
《被害に合ったのは進学校に通う全国の高校二年生の生徒およそ127000名。生徒らは本日昼から夕方にかけて、学校からの帰宅途中に次々と姿を消した模様です》
頓狂なその話に人々は動揺を隠せないようで、所々で小さなざわめきが起こる。
《また、確認が進み次第被害者の数はさらに増加すると見られています》
顔を青ざめながら、または興味本位に、携帯電話を取り出す者も少なくは無かった。
《その異様な被害者数に警察は集団テロとの関わりも視野に入れ総動員で捜査を進めていますが、彼らが何故、何者によって、そしてどのようにして姿を消したのか、一切手掛かりは掴めておりません》
マジかよ…アイツ大丈夫か、と呟きながら覚束ない様子で携帯電話を取り出すのは、大量のピアスを身に纏う少年。
どうか電話に出て、と携帯電話を汗ばんだ両手で握りながら震えた声を漏らすのは、恐らくその年齢の子供がいるのであろう中年の女性。
《尚、ご家族に進学校に通う高校二年生の生徒さんがいらっしゃる方は早急に連絡が取れるかのご確認をお願いします》
相手が出ないのであろう、少年はチクショウ!と地に携帯電話を投げ付け、女性は落ち着かない様子で帰路を急ぐ。
《そして、失踪の疑いが高い場合、こちらの電話番号にお電話をお願いしま――》
ガシャン!!
アナウンサーの機械的な声の末尾を突如鈍い金属音が掻き消した。
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