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「う…嘘…!?」
続いて若い女性がへたへたと尻餅を着く。
彼女の視線の先には、先程の金属音の主であろう倒れた自転車。橙の光に反射しながら、地を失った前輪が小さくカラカラと音を立てて回っていた。
「ど、どうかしましたか」
明らかに様子のおかしいその女性に二、三人が駆け寄る。
「こっ、高校生の女の子が…その自転車に跨がったまま、立ち止まってニュースを観てたんです」
女性の周囲を更に多くの人々が囲み始める。
「私はこの子もちょうど二年生くらいなのかしらって彼女をふと見て思ってたのですが…」
カナカナカナ…、と何処からかヒグラシの鳴き声が響き渡る。一瞬の静寂の後、そしたら、と女性は噛み締めるように続けた。
「消えたんです、ほんの瞬きをした一瞬のうちに」
様々な人が行き交い、誰が何をしてても興味をお互いに全く示さないこの街中の中央通りで、珍しく一人の人間の言葉が夕日の虚空に響いたのであった。
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