DIRECTORS

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《ねえ、お兄ちゃんはもう帰って来てるのかしら》 アナログ人間なお母さんが、珍しく携帯で電話をかけて来た。 で、開口一番にこれ。 「まだ帰って来てないよ。っていってもいつもこの時間には帰って来てないじゃない」 《あら…確かにそうね…》 何この会話。コントか何か? 元々ネジが数本抜けてるような所はあったけど、お母さんは最近ますますぼんやりして来た気がする。 《ねぇ…あなたからもお兄ちゃんに携帯から連絡いれてくれないかしら》 「急にどうしたの?」 途端、お母さんの声がぱたりと止む。 心配症だから何かあると直ぐにおろおろしてるけど、今日はいつにも増して様子がおかしい。 「ねえ、お兄ちゃんに何かあったの?」 《…夕方のニュースは見た?》 へ?と思わず間抜けな声が漏れてしまう。 「ううん、見てない」 《そう…》 帰ってすぐテレビなんて着ける訳がないでしょ。っていうかお母さん絶対私が受験生ってこと忘れてるよこれ。 《あのね、お母さんもよくわからないのだけれど、お兄ちゃんと同い年の人が誘拐されたみたいなの》 夜のニュースをあとで見たほうがいいわ、と続けて言うお母さんの答えに、なんだいつものことかと少しだけ安心したのも束の間。 《お母さんの職場に直接学校から電話が掛かって来てね。今緊急で開かれた保護者会で説明を受けてきた所だったのよ。 それでね…被害者の数が今分かってるだけで…》 「…え?」 続いて出た言葉に一瞬自分の耳を疑う。 けれど、電話の向こうから聞こえる声色がそれを強く肯定していて。 《とにかく、お兄ちゃんと連絡が取れたらすぐ教えて》 時計は、21時を回っていた。
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