DIRECTORS

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「…分かっているだけで、二十万人」 電話を切った後、椅子に座ったまま伸びをて独り呟く。 にじゅうまん。 それは余りにも不慣れな響きで、お母さんの言葉が一瞬異国語にすら聞こえたくらいだった。 ――いつの日か、日本では毎年約100万の命が誕生していると聞いたことがある。 5人に1人。 日本の高校二年生の少なくとも5人に1人が同時に誘拐された。 そんな可笑しな話が信じられるはずが無い。 (無理よ、そんなの無理。人間に出来るはずがない。きっとお母さんの質の悪い冗談よ) そう自分に胸の内で言い聞かせながらも夢中でテレビの電源を入れる。 (そもそもお兄ちゃんがその1人に入るかどうかも分からないじゃない…) テレビの画面に顔を向けると、速報、と大きく表示された赤い文字が目に入った。 それはあまりにも鋭く私に現実を突き付けてきて、思わず狼狽してしまう。 (大丈夫、お兄ちゃんがこんな事件に巻き込まれるはずがない) 画面の向こうでアナウンサーが新たに原稿を受け取っている。 何だか夢を見ているような気分。 《被害者の数は現時点で25万人まで登り上がりました。繰り返します、被害者の数は5万人程増加し、現時点で254232人です》 機械的に何度も何度も同じことを言うアナウンサーに嫌気が差して乱暴にテレビの電源を切ると、部屋が途端に静かになった。 (今日に限ってそんなことがあるはずがない) 脈が速くなるのを感じる。 頬が火照って暑い。 (だって、だって今日は) ――今日は午前中で部活終わるし、寄り道しねぇですぐ帰ってくるからな、しっかり準備して、お兄ちゃんを驚かせてくれよ… 朝そう笑いながら私の頭をぐしゃぐしゃに撫でて家を出ていったお兄ちゃんの姿を思い出す。 (今日は、お兄ちゃんの誕生日なのに…) ケーキに刺された蝋燭の火が、当てもなくゆらゆらと揺れていた。
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