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まず、この空間に壁は見当たらない。
高い天井がいつまでも続いていてまるで白い空の下に居る様だ。
また、空と向かい合わせる地面は一面が黒く光る硬い硝子で、一向に並べられた俺達を余すことなく反射している。
だから、窓が無いのに視野が明るいことも含め、この明らかに人工じみた空間が外では無いということを理解させるには充分に容易であった。
まぁこんなにだだっ広くてこんなに無意味な空間の存在など今まで見たことはおろか聞いたことも無いから、絶対室内だとは断定出来ないのだが。
「良いねえ、此処。何だかピアノの上に居るみたいだ」
しかし優太は此処をかなり気に入った様で、心底楽しそうに口角を上げていた。
「ピアノか、確かにそんな感じだな」
――常識はずれな空間に、常識はずれな量の人間が収容されている。
そういうわけでここを異質だと思わざるを得ないのだ、が。
「この歳になってピアノに乗るなんて経験、そうそう出来るもんじゃないぜ?ツイてるな俺ら!」
その笑顔につられて不思議と此方も愉快な気分になって来た。
「ああ、そうだな」
ぐだくだ考えていても今の俺たちにはどうすることもできないだろうから、きっと彼の様に気楽に構えた方が良いのだろう。
「少なくとも俺はピアノに乗るのは初めてだ」
「さすがあっくん!」
「はは、お前こそさすがだ優太」
二人して声を上げて笑うとどうやら周囲からはだいぶ浮いた様で少し視線が痛かったが、そんなことは気にしない。
俺たちを此処まで連れて来た奴は、きっと何らかの目的が有るのだろう。
全ては時が来れば分かることだ。
《皆さん、はじめまして。お待たせしてごめんなさい》
そのような考えに俺が辿り着いた時、大きくは無いがよく響くソプラノの声が突然走り響いた。
《突然の事で混乱している人が多いでしょうけど、今から全て説明しますので、良かったら耳を傾けて下さいね》
同時に、高い天井と地面の丁度中間辺りに大きなモニターが表示される。
スピーカーらしきものは見当たらないが、モニターは等間隔でこの空間に幾つも設置されいて、どの位置に居るものも無理なく観る事が出来るようになっている様だ。
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