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ザー……
今日で最後なんだね
お兄ちゃんの姿を見れるのは
家族皆で過ごせるのは
あと二時間もすればお兄ちゃんは灰になっちゃうんだね
不思議だな
皆が泣いてるのに、私は涙が流れない
どうしてかな…
こんなに悲しいのにね
今日は空だって泣いてるっていうのに…
皆お兄ちゃんの死を悲しんでるよ…
私はお兄ちゃんの棺に花を入れて、「ごめんね」とだけ言って葬儀場を出た。
もうどのくらい歩いたんだろう
この雨の中傘もささずに歩いていたから体はぐっしょり濡れていてとても寒い
そろそろ帰ろうかな
私がそう思って振り返ったとき、誠が傘を持って立っていた
「由紀、帰ろう」
誠は私の彼氏だ
もう付き合って半年になる
誠は誰よりも私を理解してくれていて、とても優しい
そんな誠の優しさは私を素直にしてくれる
「ま…こと……」
私はその場で泣き崩れてしまった。
誠は私をなだめるように頭を撫でてくれて、人目も気にせず強く抱き締めてくれた。
「由紀、風邪引くよ。帰ろう?」
「うん…ごめんね…ありがとう」
誠は何も言わず私に左手を差し出した。
私たちは手を繋いで帰った。
凄く暖かかった。
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