Ⅸ 主人と犬

16/18
前へ
/331ページ
次へ
『当たり前だと思いますけどね。』 最後にボソッ と呟いた黒時は窓に視線を移した。 空は曇っていてあまり良い天気ではない。 『雨が降ったら水が溜まる。溜まった水は川や海に流れて行く。当たり前の出来事が当たり前ではない年頃の僕は……』 欝すらと浮かぶ悲しそうな瞳は瞬き一つで 無 になった。 それをなんだか かいと にとっては寂しく感じた。 無言で見つめたパソコンにあるものが写って光っていた。 黒時の涙だ。 涙はゆっくりと黒時の頬を伝った。 本人は気づいていないのか相変わらず無表情だ。 それでも少し かいと は安心した。 黒時の感情は欠落していなかった。 悲しみも 苦しみも 懐かしさも かいと は黒時の事は何もわからない。 人には人の感情も心も知ることは出来ないから。 だから、黒時の悲しみが…心が少し分かって嬉しくも悲しくもあった。 人間って複雑だな…。 .
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3567人が本棚に入れています
本棚に追加