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side 神崎 岳菟
俺の腕の中にいる黒時を見て思う。
黒時は真実を何も知らない。
知っているかも知れない。
でも、黒時は思わないし気づかない。
所詮、小さい時の黒時の心が許さないであろう。
真実を俺が語ろう。
現場にはいなかった俺だから違う視点だが、それもまた真実。
辛抱強く、聞いてくれ。
兄からの願いだ。
岳菟は深呼吸すると窓の外に浮かぶ雲を見た。
――――――――――――――
当日、黒時が7歳。
岳菟が11歳。
「岳菟!!お兄ちゃん何だからちゃんとした身なりをしなさいッ」
広い家に充分なくらい響く怒鳴り声に反発するような岳菟の声がした。
「いつも、兄貴、兄貴兄貴兄貴。一番先に生まれたから手本になりなさい。貴方に出来ないのに何で黒時にできるの?もう少し勉強しなさい。うんっざりなんだよっ。」
「岳菟、止めなさい。百合も。黒時が怖がっているだろう?それに今は食事中だ。」
仲裁するかの様に父さんが静かに言った。
弟の黒時は名前が上がる度に ビクッと体が跳ねていた。
『にぃさん…。』
恐る恐る黒時が俺に声をかけてきたから黒時の方を見ると黒時は時計をチラリ と見た。
学校に行く時間だ。
毎日、毎日、黒時は必ず俺に声をかけてくる。
その度に俺は拒否をする。
「今日は連れと遊ぶから学校行かね。一人で行けば?」
『う、うん。…また、一緒に行こうね。』
毎日毎日同じ台詞。
黒時はいつも‘また’と言う。
一緒に登校したのは黒時が小学1年になった入学式以来だ。
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