鏡と偽善と兄弟と

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ほどなくして彼女は、とある建物へと入っていく。 なかなかに洒落た装いのその店で、彼女は食事と、紅茶と焼き菓子を頼んだ。 丁度良い分量を盛られた食事に舌鼓をうち、食後の紅茶と菓子を待つのみとなった彼女は、それらの到着が些か遅れ気味であることに溜め息を一つうち、それならばと席を立った。 そのまま化粧室へ。 生憎と、入り口近くの個室は使用中であったため、一番奥の個室に入った。 その後、手洗い場――――蛇口式だ、流石は高級指向、金がかかっている――――で化粧を直そうと顔を上げると、鏡が無かった。 なんとも手落ちの感が否めないが、彼女にはそれが、輪をかけて不満だったらしく、酷く顔をしかめた。 そして手鏡を取り出そうと……した所で、背後の扉が開く音を聞く。 いや、何かが落ちて割れる音だったかもしれない。 どちらにせよ、彼女の意識は闇に沈んでいく最中であったのだから、はっきりとは分からない。 ……ただ、暫くして、勝手に帰る困った客の席で、粛々と食器が下げられたというだけである。
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