ようこそ『かがみや』へ

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「……ああ、別に見た目の事じゃないよ。内面、つまり僕の人間性をよく表してるって事さ」 少女の戸惑いに気付いたのか、彼が訂正する。 「人間性……ですか?」 「そう、まあそんな大層なものでも無いがね……まあなんというかさ、僕は『個』というものが人一倍薄くてね……こういうのを自分が無いっていうんだろうけど」 若干、自嘲の入り混じった口調で告白する店主 「は、はあ」 「ようは相手によってコロコロ変わっちゃうんだよ。僕。」 軽い調子で話す彼は里香の目に、どこか吹っ切れているようにも映った。 「ま、言ってみれば鏡みたいなもんさ、君と話してる僕はあくまで君に対しての僕でしかない。この瞬間の僕は果たして僕だと言えるだろうか? 君によって決定された僕はある意味、君が要素とも君の要素だとも言える。僕は君であり君は僕でもあるのさ」 突然早口で喋りだす店主。 「え、え?ええと……ううーん?」 ますます分からないといった表情で頭を抱える少女。 「貴方はだぁれ? と聞かれたら、僕は『貴方です』返答するだけさ。……ま、もともと僕ってもんがないんだから、相手にとっても、ただ『貴方』と呼ぶしかないだろうしね。……ふふ、ちょっと難しかったかい?」 「ええ、まあ……」 なんだか釈然としない顔の里香。その目は「なにいってんだコイツ」と言っているようでもある。 とにかく訳の分からないこの男は、やはりどこか狂っているのかもしれない。 「とにかく、それはいいんですけど……正直、そんな名前で大丈夫なんですか? やりにくくありません?」 いい歳こいてお前はそんなんで恥ずかしくないのかと。 ……別に彼女が言っている訳ではないが。 「ははは!! いやーよく言われるよ。特に君たちみたいな和名のお客さんにはね」 なぜだか店主は依然として、かなり愉快げである 「和名……って事は日本人のお客さんって事ですか? ……へぇ、ここ外人さんもくるんだ……だからちょっと洋風なんですね」 「え、日本人……うーん……ちょっと……いや、まあそんなとこかな」 なんだか歯切れが悪いが、里香の解釈を訂正する気は無いようだった。
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