ようこそ『かがみや』へ

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「とまあそんなわけで、そういう人達の為にこんなのも作ってみた」 そういって店主は懐から一枚の紙きれをおもむろに取り出し、指に挟んだその紙きれを里香の方へと差し出す。 里香が用心しつつ受け取ってみると、それはなんて事はない、ただの名刺だった。 その名刺にはこう記されていた --------- 『かがみや』店主 カガミ キョウイチ 鑑 境一 --------- と 「へぇーわりとシンプルなんですね」 それは名刺への感想だったのだろうが 「ああ、『境介』とも迷ったんだがね。『境一』の方がしっくりきたんでそっちに決めた」 この男は名前の批評だととったらしい 「え、いやそういう事じゃなくてですね……ってか、『迷った』って偽名なんじゃないですか!!」 「当たり前だよ。鏡屋の名前がカガミとか、そんなとってつけたような本名だとでも思ったのかい?」 「いや、そういう事言ってるんじゃありませんから! つか、自分でとってつけたとか言わない!!」 彼女に若干、突っ込みスキルが芽生え始めている気がするのは、確実にこの男のせいであろう。 「やれやれ、要は『かがみやの店主』を呼ぶだけなんだから、別に偽名で充分だろう?」 「なにか違う気がする」 どうも彼女はこの店主に対して釈然としない点が多いようだ。 「あれだよ、芸名みたいなもんだよ。ほら解決。」 「うーん、それなら別にミスターユーでもいいような……」 案外彼女は細かい性格をしているのかもしれない。 「……とにかく好きなように呼べばいいって事さ。分かった?」 ちょっとだけ面倒くさそうに店主が言い放つ。 「はい……それじゃえっと……鑑さん?」 適応するしかないと諦めたのか、店主の呼び方を決めたらしい。 「はいはい何でございましょうか?」 それに対して店主--鑑は少女の来店時のように対応した。 「鑑さん、私の悩みを聞いてもらえますか?」 「ええ、もちろん。どんな世界をご所望で?」
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