ようこそ『かがみや』へ

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店主の問いかけに里香はその口を開いた。 「はい、あの実は私……」 ……とかく、この少女が打ち明けた話を要約すると、ここ数日、何者かにつけ回されているというような事であった。 しかし、ただのストーカーという訳でもないようで…… 「四、五人くらいでついてくるんです。ずっと」 さっきまで明るかった彼女の表情は、既に怯えにより陰りきってしまっていた。 「ふーん、そいつはまたモテモテだこと。美少女はつらいねぇ」 鑑は冗談めかして言ってはいるものの、顔はいたって真剣であり、本心からそう思ってはいないようだった。 そもそもこの……葉島 里香という少女。 確かに彼女は非常に愛くるしく、間違いなく美少女という部類に入るではあろうが、なにも数人で熱心に追っかけまわす程の美貌という訳でもない。 せいぜい、『ちょっと気になるクラスメート』どまりだ。 だいたい、ストーカーが徒党を組むなんて聞いた事がないし、嫉妬や独占を主とする彼らの性質上、そんな事はこれからも無いだろう 「それにその人達、ただついてくるだけならまだいいんですけど、確実に私に何かしようとしてるんです……」 最後の方などは消え入りそうな程に弱々しい声だった。 彼女のチャーミングポイントたる綺麗な瞳にいたっては少し涙で潤んでいる。 明るく振る舞ってはいたが、ここ数日の事が余程こたえたたのだろう。 みるからに繊細そうな彼女が、数日間ずっとつけ回されて平気なはずがないのだ。 だが 「うーん、ちょっと聞きたいんだけどさ、そいつらが君に何かしようとしてるって何で分かったのか教えてくれるかな? それに相手が複数だっていえる証拠とか」 弱っている彼女にたたみかけるようで少々酷だが、この問いも仕方ない。 なぜなら、『人の視線を感じる』など、実際はかなりの高等技術であり、決して一般人が出来うるものではないからだ。 ましてや彼女のような普通の少女にそれが出来るとは考えにくい。 つまり、彼らについてここまで断言できるならば、何かしらの行動を目撃したか、それなり証拠がある筈である。 それは重要な手がかりであるし、もしなんの確証もなしに、ただなんとなくそんな気がする、だけでは彼女の被害妄想という可能性も考えなくてはならない。
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