ようこそ『かがみや』へ

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「なぁるほどねぇ…」 もはや、ため息と一体となってしまっているかのような声を吐く店主。 「あ、あの…やっぱり、やっかい事は嫌ですよね、ごめんなさい…私もう一度ケンに…」 店主の反応を、否定的意味だと捉えたのか、少女は席を立とうと… 「いやいや待ちたまえよ。何言ってるんだい?」 パシッと店主が少女の腕を掴んで座り直させる。 「…さっきも言ったけど、君が店に来た時点で、既に依頼を受ける事は決まってるんだよ」 「え、あのでも…私が言うのもなんですけど、こういうのって、やっぱお門違いというか…」 「ふむ、やっぱり僕では不安かい?」 「いや、そういう訳では…」 彼女、口ではこう言ってはいるものの、内心ではかなり不安に違いない。 なんせ、こんな得体の知れない男…しかもただの店主にすぎないのだ。 こんな事を任せて、きちんと解決するのだろうか…と。 探偵を雇った方が、よっぽど信頼できるだろう。 …ただ、彼女が探偵事務所に行かず、ここへ来た理由が一つあった。 彼女が現在、唯一心を開いて信頼できると思っているケンイチ少年が、ある事を言っていたのだ。 「あの…本当にタダなんですか?」 …そう、彼女にはその探偵を雇う金が無かった。 正確には『彼女の家に』である。 里香の両親は共に、非能力者であったので、ごくごく普通の仕事をしている。 ごくごく普通ではあるが、このご時世のごくごく普通とはそれつまり、稼ぎが少ないという事なのだ。 …もちろん、貧困に喘いでいる訳ではない。 彼女の父は、家族思いの素晴らしい男であるので、愛する妻と娘の為に毎日、懸命に働いている。 なので、ごくごく一般的な家庭生活を送るには不自由しない稼ぎをとってきてくれるのである。 …だが、彼女の両親は非常に娘を大切にし、娘の為になるならば、どんな犠牲も厭わない類いの人達でもあった。 なので、彼女に『チカラ』の才があると分かった時、その類い希な才能を伸ばしてやるために、彼女を能力者の為の学校に入れる事を決意し、そして実行してしまったのだ。 言ってしまえば、超名門私立校に入学させたようなものである。 一般家庭には少々お高い入学費と授業料を惜しみなくつぎ込んだのだ。 なので、彼女の家庭は一般家庭よりも若干、家計が苦しい事になっている。 母親が懸命に遣り繰りしているので、なんとかギリギリ、貧乏を踏みとどまっているといった具合だ。
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