ようこそ『かがみや』へ

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もちろん彼女もそれを分かっているので、両親の恩に報いるべく、日夜勉学に励み、徐々に才能を開花させつつ、学年でも指折りの秀才の道をたどっている。 そしてそんな親孝行な彼女は、この事を両親に口が裂けても言えなかったのである。 もちろん、この事を両親に打ち明ければ、彼らは即刻、優秀な探偵だのボディーガードだのを雇いに雇って、彼女を完全武装するだろう。 その苦しい家計と身を削って。 それは、火を見るより明らかである。 あの鉄のように鈍いケンイチ少年ですらこう言った。 『ああ…親父さん達なら、第七艦隊まるまる買い取りかねねぇわ…』 非常に孝行に育ちつつも、まだ未熟な娘は、未熟さ故に、孝行さが誤った方向につき進み、この事実を両親に一切伏せるという決断をしたのだった。 …つまり この少女が現在、都合しうる依頼料は、部屋中からかき集めた、七千五百合しかなく、それが彼女個人の全財産だった。 この時ばかりはこの少女、自分が、普段から小遣いをせびらない、近所でも評判の才女である事を悔やみに悔やんだ。 故に彼女は、さんざん悩んだ挙げ句、普段は自分が世話をやいてやっているどうしようもない幼なじみに相談する事にした。 妙なところで頼りになる彼ならば、金のかからない、良い方法を知っているような気がしたのだ。 そしてここに行き着いた。 行き着いてしまった。 「その…私…あんまりお金がなくて…」 「ああ、お代なんていらないよ」 「ほ、本当なんですか…!? でもそんなの…」 おかしい 依頼料もとらずに、どうしてこう、面倒事をホイホイ受けて貰えるのか。 これではむしろ不安なくらいだ。 利益が気にならない程、本業の店舗の売上が潤沢なのだろうか? …見たところ、それはない。 「ああ、だってこの店は鏡屋だからね。ここでは、鏡を売った金以外、受け取るつもりはさらさらないよ」 「で、でも…それって、やっていけるんですか…?」 鏡だけ売って、それで暮らしが成り立つならば、彼女の父が汗水たらして働く必要などどこにもないのだ。 まして、鏡なんて、とてもじゃないが、そうそう需要があるようには思えない。 「ふーん…そうだなぁ……さおだけ屋って知ってる?」 「あ、ハイ聞いた事はあります」
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