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「あれが成り立つなら、鏡屋もアリだよね」
「は、はぁ…」
すこぶる晴れやかな顔でそう言った。
とても誇らしげだ。
「あれって…副業してるんでしたっけ…?」
半ば推理に近い意見を提出すると
「え、あ、やっぱそうなの? 初めて知った」
出題者が解答を用意していなかった。
「まあ、とにかく僕も副業やってるのさ。そしてこれがなかなかに実入りが良くてね! 店も依頼も充分すぎるくらい賄えるんだ」
本業よりも儲かる副業とはこれいかに。
もう、そっちが本業じゃねぇのかよ!
…と突っ込みたい気持ちを抑えつつ、彼女は強引に納得する事にした。
相手がいいと言うならば、それでいいのだ。
自分に損が無いように思えた。
…しかし、裏で一体どんな汚い事をしているのだろうかこの男。
「…つまりね、この依頼を受けるのはね…ある種の趣味だ。ただの僕の自己満足。言うなれば暇潰しだね」
「しゅ、趣味ですか?」
「そう、こう見えて僕は意外と…いや、見たとおりの暇人でね。本業と副業をやってもまだ、膨大な時間が余っちゃうんだよ」
「…はあ」
そんな短時間で稼げる副業があるなら、それを教えて貰った方がよほど助けになる気もするが…
汚い仕事だったら困るので聞くのは止めた。
「んで、その余りに余った時間をどう使おうかと考えた結果、こうなったのさ」
「えぇ…」
すごく複雑そうな顔をする少女。
それはそうだ。
自分の真剣な悩みを、暇潰しで解決されてはたまったもんじゃない。
「あ、趣味だからって手は抜かないよ? 仕事は保証する」
「う、うーん」
まあ、あの無駄にシニカルなケンイチ少年が、ここならばと薦めてきたのだから、仕事っぷりは信頼できる…のかもしれない。
「…で、依頼する? しない?」
店主が、穏やかかつ、どこか安心感を与える笑顔で問う。
「…お、お願いします…」
少女が答えた瞬間、店主はすっくと立ち上がると、彼女の可愛らしい手をとり、高らかに宣言した。
「よろしい! 貴方に貴方が望む世界を!」
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