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「さて、依頼は承ったんだが」
おもむろに立ち上がった店主だったが、再び、するするっとその腰をおろしてしまった。
一体何のために立ち上がったのかこの男。
「流石の僕といえども、即効即時ズバッと解決! …とはいかないんでね、少々お時間を頂くよ?」
「ええ、それは私も分かっています」
むしろ、頼んだ瞬間に「ハイ、解決しましたぁ!」なんて言われた日にゃ、流石の彼女も、その小さな体をもって、憤然と躍り掛からねばなるまい。
解決に多少の時間を要するのは承知の上だった。
「ま、それでもほんの二、三日なんだけどね」
「は、はあ…」
本当に二、三日で終わるのだろうか…
この男と話す度に彼女の瞳に疑念の色が色濃く写るように思えてならない。
「しかしだ、例え短期間といえど、その間に君にもしもの事がないとは限らない。そこでこれを君に渡しておこう」
そう言って、店主は懐に右手を差し入れ…
「あれ…」
ゴソゴソ
「これを…」
左手を差し入れ…
「君に…」
胸から腰を満遍なく叩き…
「あれぇ? どこやったかなぁ…」
カウンターの下に消えた。
店主の消えた先では、何かがガチャガチャと煩い音をたてていた。
…本当にこの男に任せてよかったのだろうか。
彼女の顔が、なんともいえない不安さを表しきった時、店主がひょいと頭を出し、再び元の姿勢に戻る。
「…オホン! えー…しかしだ、例え短期間といえどーー」
「そこはもういいです」
遮らた店主は、とてもとても残念そうな顔をしたが、彼女はそれを無視した。
「君にこれを渡しておこう」
今度こそ店主は、懐から手のひら大の物を取り出すと、なめらかな手つきで、彼女のカップの隣へ並べる。
ことりと音をたてて置かれたソレは
桃色のかわいいコンパクトであった。
「とりあえずそれを持っていなさい」
「は、はい…」
言われるがままに手にとり、広げて覗き込む。
そこには不安と、なぜか期待の混ざった顔の自分が映っていた。
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