『かがみや』始動

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「まあいいや、とにかく、怪しい奴が見えたら、なるべく、その鏡の中に捉えておくように」 「はい、それじゃあ……」 少女は礼と共に席を立ち、店をあとにしようとするが、店主の問いに引き止められる。 「そうだ、ここに来る時はどうだった?」 「来る時ですか…? その、やっぱり……」 少女の瞳が不安に陰る 「いたんだね……そうか、だったら相手さん、今頃てんやわんやの大騒ぎだろな」 心配をよそに、ニヤリと笑みを浮かべる 「え?」 「いやいや、少なくとも今日の帰りは大丈夫だって事さ。彼らが余程バカでない限りね」 自信ありげに宣言した店主 「?」 少女は困惑を浮かべ、視線を投げ返すが、当の店主はというと、『……いや、ストーカーなんてする奴は大抵バカか…』などと一人で呟いている。 その姿を見て、呆れたような、でも吹っ切れたような少女は扉に手をかけた。 「とにかく、お願いしますね!」 「ああ、もちろん。帰りに気をつけて」 軽く手をふる店主に見送られ、少女は帰路につく。 扉が勢いよく開け放たれた事で、鐘がカランカランと音を立てた。 「……さてと、お仕事お仕事」 店主は、うーん…と一つ伸びをしてから、カウンターの奥へと消えた。 --------- リカはもう一度振り返って、自分が先程まで紅茶を楽しんでいた奇妙な店を、そのくりくりとした両の目に納める。 本来ならば、ショーウインドウ、もしくは窓であるハズの部分も、挙げ句ドアまでもが全面鏡張りの異様な店構え。 その上に、でかでかと達筆で『かがみや』なんて書かれた看板の、なんと似合わない事か。 なんの変哲もない雑貨屋と、なんの変哲もない喫茶店がその両隣を固めている事が、ますます異質さを醸し出している。 ……浮いている。 彼女の抱いた感想は、店から出てもなお、入る前と、まったく変わっていなかった。 この、浮きに浮きまくった店構えのせいで、 彼女はドアノブに手をかけるべきか、かけざるべきか、大いに悩み、実に15分もの時間を無駄にしたという点において なんら彼女が責められるべきではない。 むしろ最終的にドアをくぐる判断を下した彼女の勇気を賞賛されるべきだろう。 もはや勲章ものだ
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