『かがみや』始動

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しかし、そんな怪しい店でも、リカの心に幾ばくかの余裕を与えたのは紛れもない事実である。 その点に関しては、ちょっとだけ評価していいかもしれない。 気を取り直した彼女は、店主に言われた通り、ポーチからあのコンパクトを取り出し、それを開いて覗き込んだ。 ひとまず、辺りにそれらしい人影は見えなかったので、安心。 ただ、それと同時に彼女の【チカラ】--それもこの二、三日で随分と鋭敏になった--は、好ましくない反応が、急速にここへ集まってくるのを察知していたが。 とにかく今は一刻も早く我が家へ帰り着かねばならないと感じた彼女は、サッと、そのこぢんまりとした一歩を踏み出した。 ---※※※--- 喫茶店を通過した彼女の後方…… おそらく、彼女の【チカラ】の効果範囲ギリギリと推測される位置で、幾つかの影が慌ただしく集結していた。 ほんのつい五分前、目標を見失った彼らは、それはもう見事なまでの混乱に陥った。 もはや"恐慌"と評して過言ではない程に。 ……だが、それも無理からぬ事だった。 そんな事は現実に置いて有り得ない事態であったし、また、有り得てはならない事であったのである。 ……少なくとも彼らにとっては。 目標が、存在及び痕跡もろとも消失--まさにそう表現するしかないくらい完璧な失踪だった--したと思われる地点を監視していた仲間から目標確認の報が入り、付近の捜索に散らばっていた全員が再び集まった。 先の異常事態の原因については、なんら手掛かりも掴めていなかったが、それ故に、ひとまず、目標の追跡を優先しなければならなくなった。 彼らは完璧に、そして完全に事を運ばねばならない。 よって想定外の事態により、本日のところは、再びのイレギュラーを警戒して、下手な行動よりも、慎重に情報を収集する事に専念せざるを得なくなったのだ。 場合によってはプランの大幅な修正が必要となるかもしれない…… やがて影が、動きだした。 ---※※※---
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