『かがみや』始動

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「そうだ! お前、境一さんとこ行ったろ?」 「うん、昨日行ったけど…確かに変な店だったわ。……なにより鑑さんが」 「あの人からなんか貰ってないか?」 「ああ、これ貸してあげるって……」 彼女はポーチから、桃色のコンパクトを取り出した。 「ちょっと見せてくれ」 「いいけど……」 彼女の手から、相変わらずの素早さで、若干時代遅れが否めない化粧道具をひったくると、まじまじと観察し始めた。 男子がコンパクトを舐めるように見回している光景は、非常に異様である。 「それ、知り合いの人が作った特別製なんだって、発信機とか付いてるらしいよ」 彼女が説明するが、少年の耳には届いていないようだ。 ただ一言。 「……小さいな」 「当たり前でしょ、コンパクトなんだから」 彼女が真っ当に切り返すと、少年はおもむろに、自らの拳を、四角い鏡へと突きつけた。 「ちょっと、やめてよ!」 普段から、粗野で大雑把な少年の気質を知っている彼女は、借り物に傷がついては一大事と、急いでひったくった。 「……小さい」 「はぁ?」 確かに嵌め込まれている鏡は、彼の拳よりも小さい物だったが、それがどうしたというのか……彼女の咎めるような声、それすらも気にせず、思案を巡らせる彼。 「ソレ、ちゃんとあの人から貰ったんだな?」 「……そうだけど」 ふむ…と呟くと、少年は口を開いた。 「とにかく、今日は俺、一緒に帰ってやれないんだ。何かあっても、多分、手を出せない。……だから、頼む」 「ちょっとケン……大丈夫?」 真剣な少年の声、だが何故か、自分に向けられたものでは無いような、そんな気がした。 やはり、様子がおかしい。 少なくとも、彼女が心配するくらいには。 「まあ、ケンが変なのはいつもの事だけどさ……あっ」 彼女が何気なく、手元の借り物を見やると、鏡の上で点滅する、緑の光が目に入った。 「ランプがついてる……いつの間に」 「……なんのランプだ、それ」 「なんか、バッテリーランプらしいよ。これがついたら電池切れのサインなんだって。交換してあげるから、その時は店に来なさいって」 「…………そうか、分かった」
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