『かがみや』始動

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「いいかリカ、今日終わったら、まっすぐあの店に行けよ」 「う、うん…そのつもりだけど…」 今まで見たことがないくらい真剣な眼差しで見据えられ、たじろぐ少女。 「なんかあったら、走れ。とにかく走れ。持てる力、全部出し切るんだ。あそこまでたどり着けば、絶対、安心だから」 「わ、分かった……」 リカが、謎の気迫に押し切られるがまま頷くと同時に、終了のチャイムが鳴る。 「……んじゃ……」 「うん……」 少年はまだ言い足りないようだったが、少女の手の中にあるコンパクトをチラリと見やると、そのまま自分の教室へと帰っていった。 「……あ、お弁当」 来客にて中断されてしまった昼食は、まだ半分も残っていた。 -------- 少女は校門を出るとすぐに、最初の角を東へと曲がった。 本来、家に帰るならば、そのまま直進した方が早いのだが、そうしなかったのは、幼なじみの、半ば命令に近い助言に従うためである。 ……しかし驚いたのは、あの奇妙な店が、案外近所にあったという事だった。 あんなに奇妙な店構えをした店舗があれば、噂の一つや二つあってもよさそうなものだが、生憎とそんなものは今まで、一度も耳にした事は無い。 ……まあ、彼女自身、そういう世間の噂に対して、ことさら疎いところはあったたので、噂自体はあっても、ただ彼女が知らないだけ……という事も、充分に考えられるが。
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