『かがみや』始動

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「……はあぁぁ」 店に転がり込んだ少女は、しばらくの間、その場に立ち尽くしていたが、情けない声を上げると、その場にぺたんとへたり込んだ。 目には涙が浮かんでいる。 「おやおや、一体どうしたっていうんだい?」 それを見た店主は、心配そうに店の奥から姿を現した。 ……しかし、かけたのは、なんとも間の抜けた声だったが。 「…い、いま……あの、く、黒い……」 「うん? ……まあ、とりあえずこれ飲んで」 言うと、机の上のティーカップに、片手で紅茶を注ぎ、ポットと持ち替えて、持ってきた。 そのまま彼女に手渡す店主。 少女は、カップを受け取るや否や、くいっと一気に飲み干す。 不思議な味のする紅茶を飲むと、心がスッと静まるようだった。 「……ふぅ……ありがとうございます……」 「いえいえ、それで?」 「えっと……さっきですね……」 状況を報告しようとした彼女は、店主が右手に持っている物に目を止めた。 「あの……それは……」 「ああ、これかい?」 店主が手首を曲げて見せたのは、どう見ても銃だった。 「麻酔銃だよ」 「麻酔銃?」 「いやぁ、カラス共がうるさくってねぇ……でも、殺すのは忍びない。だから、これ」 そうして、撃つ真似をする。 「知り合いの倉庫で眠ってたのをちょいと拝借したのさ……なに、肥やしにするよりいいだろう。こいつならインドゾウでも3秒でおねんねだ」 「え、それって大丈夫なんですか…?」 そんな強力な薬をカラスがくらって、はたして、再び目を覚ます保証はあるのだろうか。 「そんな事知らないよ。気にしてやる義理もないし。結局は自業自得さ。『カラスも鳴かずば撃たれまい』ってね」 「はぁ……」 「奴ら、なかなか警戒心が強いんだ。だから仲間が撃たれたら、しばらくは大人しくしてるのさ。僕としては、やりやすくって有り難い限りだよ」 「いつも鑑さんが退治してるんですか?」 そういう事は地区ぐるみで当たる物なのではなかろうか。 「いやあ、あんなに頼まれちゃったらねぇ……断れないさ」 ふむ、浮いているように見えたが、案外、ご近所とは良い付き合いをしているらしい。 「それで? 何があったか、まだ聞いてないんだけど」 「え、あハイ……あのですね……」
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