『かがみや』始動

15/16
前へ
/82ページ
次へ
対する彼女が口を開いて行ったのは、了承でも、反抗でもない、そのどちらにも属さぬ回答だった。 「私、知ってるわ」 「……何を?」 男の見下すような視線がサングラスの奥で光る。 目の前の矮小で愚かな存在は、彼にとって、ただのターゲットでしかないのだ。 そんなものが生意気に何を言うか。 「あなた達、ずっと私をつけてた人達でしょう」 フッ……と蔑みが漏れる。 「その通りだお嬢さん。いやはや、ご明察……恐れ入る」 完全に馬鹿にした声。 「私を捕まえてどうするつもり……」 「さあな、君に教える義理はない。……そして、知る必要もない」 男が一歩を踏み出す。 少女も一歩後ずさる。 すると彼女の踵が、何かをコツリと叩いた。 とっさにそれを拾い上げる少女。 明らかに重みを感じたそれは、はたして古びた金属バットだった。 「はっはっ! そんな物でどうしようというのかね! 君のような子が!」 空を仰ぎ、少女の抵抗を笑い飛ばす男。 彼が顔を戻せば、スッ……とサングラスごしの視線が冷たさを増す。 「我々も随分と手こずったものだ……ガキをたった一人捕まえるのにな」 彼の顔が屈辱と怒りに歪む。 彼らにとってみれば、少女一人に何日も煩わされた事がよほど悔しいとみえる。 「……しかし、勘違いするな……お前が足掻いたところで、何にもならん……煩わしいだけだ。お前自身には何もできん。全てあいつの……」 そんな少女が、この期に及んで、まだ抵抗しようとするのが、男は気に入らないらしい。 イライラとした声が混ざる。 「……現にお前はこうして追い詰められている。自分の立場も理解できんのか馬鹿が」 今更、無駄な事だ……と。 男が吐き捨てた。 「……ふふ」
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加