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対する彼女が口を開いて行ったのは、了承でも、反抗でもない、そのどちらにも属さぬ回答だった。
「私、知ってるわ」
「……何を?」
男の見下すような視線がサングラスの奥で光る。
目の前の矮小で愚かな存在は、彼にとって、ただのターゲットでしかないのだ。
そんなものが生意気に何を言うか。
「あなた達、ずっと私をつけてた人達でしょう」
フッ……と蔑みが漏れる。
「その通りだお嬢さん。いやはや、ご明察……恐れ入る」
完全に馬鹿にした声。
「私を捕まえてどうするつもり……」
「さあな、君に教える義理はない。……そして、知る必要もない」
男が一歩を踏み出す。
少女も一歩後ずさる。
すると彼女の踵が、何かをコツリと叩いた。
とっさにそれを拾い上げる少女。
明らかに重みを感じたそれは、はたして古びた金属バットだった。
「はっはっ! そんな物でどうしようというのかね! 君のような子が!」
空を仰ぎ、少女の抵抗を笑い飛ばす男。
彼が顔を戻せば、スッ……とサングラスごしの視線が冷たさを増す。
「我々も随分と手こずったものだ……ガキをたった一人捕まえるのにな」
彼の顔が屈辱と怒りに歪む。
彼らにとってみれば、少女一人に何日も煩わされた事がよほど悔しいとみえる。
「……しかし、勘違いするな……お前が足掻いたところで、何にもならん……煩わしいだけだ。お前自身には何もできん。全てあいつの……」
そんな少女が、この期に及んで、まだ抵抗しようとするのが、男は気に入らないらしい。
イライラとした声が混ざる。
「……現にお前はこうして追い詰められている。自分の立場も理解できんのか馬鹿が」
今更、無駄な事だ……と。
男が吐き捨てた。
「……ふふ」
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