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「何が可笑しい、小娘」
男の声に殺意が混ざる。
本来ならば、聞くだけで身も凍るような冷たい声。
それでも少女は笑うのを止めない。
「ごめんなさい、あまりにも滑稽で……はーあ、この期に及んで、まだ私を"追い込んだ"と思ってるんだから」
「……なに?」
「自分が主導側だと思い込んでる人ほど、その実、操られてる事に気づかないものなの」
「……何が言いたい」
声が、ますます鋭さを帯びる。
「まだ気付かないの? 貴方達はまんまと罠に引っかかったって事よ」
対して少女は、とても冷静に、そして穏やかに言い放った。
「……フッ……ハハハ!! ……ハッタリはよせ、醜いぞ」
黒服の男はそれを高らかに笑い飛ばしたが。
「……まったく、人を信じられないなんて哀しいとは思わない?」
それを彼女は呆れたように窘めた。
……そして。
「……そうでしょう? 『能力管理局第三特務課室長』さん」
さわさわと草を奏でていた風が、やんだ。
彼女の一言で、男達の表情に尋常ならざるものが浮かぶ。
「……貴様、それをどこで知った」
「あらまあ、案外簡単に認めちゃうのね」
「どこで知ったと聞いている!!!」
男の声に先程までの落ち着きはなく、激昂と焦りが色濃く表れていた。
それを見た彼女はため息を一つ。
「ハァ……日本の能理も堕ちたものね……」
あからさまに肩をすくめ、首を振る。
「最近の能理官には、レディの区別もつかないんだから…………」
その落胆を、彼女はこう締めくくった。
「……困ったもんだ」
……と。
そのまま彼女はクルリとその場で一回転。
制服のスカートが、翻る。
ほんの、一瞬の出来事。
だが、その一瞬で少女は忽然と姿を消した。
そして。
「貴様……一体……」
サングラスの奥で驚きに目を見開く黒服。
「どうも皆様、お初にお目にかかる。……わたくし、こういう者でございます」
先程まで、制服の少女がいた場所には少女の姿はなく。
代わりに、怪しい紳士服の男が立っていた。
ピッと指で弾いた紙は、黒服の足元に突き刺さる。
見ればそれは四角く小さな名刺であった。
大仰な一礼で、自己紹介。
文句は一言。
『かがみや』店主
「……以後、お見知り置きを」
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