その男『かがみや』につき

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「違う、違うね。貴方が欲しいのは『葉島 里香』という少女じゃない……そうでしょう?」 「何が言いたいのかさっぱりだな」 眉間にシワを寄せつつ答える室長。 彼らが戯れ言に付き合ってやるのは、情報収集のためだろう。 でなければ、こんな男を生かしておく義理も価値もないのだから。 「貴方達が欲しいのは、彼女の『チカラ』だ……違いますか?」 「……」 「なんとも静かな肯定ですこと」 沈黙を都合良く解釈する店主。 「それがどうした、あの小娘を回収する事に変わりはない」 「それが変わるんですよ、コレが」 室長の言葉に、半ば被せるように言い放つ。 「私はとてもお節介焼きでお人好しの、善良な商人ですので、"貴方達の欲しい物"をそのままお渡ししようと言ってるんですよ、面倒な工程を抜きにしてね」 「……話が見えんぞ」 絶対零度の視線、下がりようの無い温度がさらに冷える。 「ですから……」 店主も店主で、声に呆れが混じる。 「彼女のチカラを手に入れたその先を、まるっとそのまま進呈しますよと言ってるんです」 「……なにぃ?」 サングラスの上で、左の眉が、いかにも胡散臭そうに跳ね上がる。 「悪意を探知する……そんな機械があれば、能理もさぞかし仕事がはかどる事でしょうねぇ……」 にやり、と口角を吊り上げる。 「ふん、そんなもの」 「……おや、違いました? てっきり彼女を検査にかけて、じっくりチカラの仕組みを解析するのかと」 「……」 「実際、チカラの研究開発なんて、当たり前なんでしょ? ちっとばかし危険だからって、日の目をみないだけで」 この世界の人間なら、誰でも一度は想像し、巷でまことしやかに囁かれる都市伝説。 そんな存在を仄めかす。 つまりは、"そういう事" 「……ふん、例えそうだったとして、貴様にそんな代物が用意できると? ははは、さすが商人は口が上手くないと務まらんな」 「だから言ったじゃないですか、人を信用できないなんて哀しいですよ?」
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