その男『かがみや』につき

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「ハッ、馬鹿を言え、それを作る為に我々が動いているんだ。そんなモノが既にあれば、苦労はしない」 それに溜め息を漏らす店主。 「駄目ですよ、貴方達の部署が、いくら裏で動いていようと、たかだか日本の公共機関じゃないですか、自分が一番だなんて、思わない方がいいですよ?」 「……ほう、お前達の組織はそんなに優れていると?」 サングラスの奥で、視線が怪しく光る。 「ハハハ、お生憎様、組織なんていやしませんよ。私はただのお人好しの商人です。今回は、仲買人って言えばいいのかな? 今度の事だって、私の善意にすぎません」 「……個人? これが、お前一人の仕業だと?」 店主の行動が、これだけの事が、命令されたモノではないと言うのだ。 「そうですよ? そうやってすぐ組織だのに結びつけるのはどうかと思いますね。だいたい、どんなに管理された組織だろうが計画だろうが、全て個人で出来てるんです。たった一人の良心が働いたって、何もおかしくないでしょう? 世の中、あんがい物好きが多いんですよ」 「……で、物好きの商人が、どこから品物を持ってくる? そんな代物を作れるのは、我々の研究機関くらいだ」 それは決して過信ではない。 どの国と比べても、現時点でこの分野の最先端はこの国だ。 いくつかの大国には、いずれ追い抜かされるのだろうが。 「……だから言ったじゃないですか、驕りはいけませんよって……貴方達が優秀な人材を揃えたと言うなら、同じ人材が揃ってる所から貰ってくればいいんですよ」 「……それは一体どこだ!?」 そんな機関があるという情報は、どこにもない。 もしもあるとするならば、念入りな調査が必要だろう。 「そこはホラ、企業秘密って奴ですよ」 片目を閉じた、茶目っ気も、男達を苛立たせただけだ。 もっとも―― 「どうせ貴方達だと言っても、分からないんでしょうね」 ポツリと呟いた店主の言葉は、頭に血の上った男達には届かなかった。
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