その男『かがみや』につき

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「さて、商売ごっこは終わりだ。アレは今どこにいる?」 「おやおや、アレさん、なんて方は存じませんよ。……まあ、リカちゃんなら、今頃うちの店で優雅なティータイム中ですけど」 「店……そうか、あの付近に、お前の本拠地があるんだな?」 「ええそうです。どの付近かは知りませんけどね。ご来店お待ちしてますよ」 「フン、言われずとも行かせてもらう、貴様を処理した後でな」 男達が、懐から黒光りする何かを取り出した。 何か、とは言ったが、こういった場面では、とても馴染み深い代物だ。 「おやまあ、そんな物使わずとも、貴方達にはチカラがあるでしょうに」 「貴様ごときに? 笑わせる。我々は決して獅子じゃない。鼠を狩るにも全力を出す程、自己顕示を迫られちゃいないのさ」 ありふれた拳銃の先が、店主の眉間に狙いをつける。 「そうだ、最後に一つ、お聞きしても?」 「なんだ」 「貴方達みたいな集団が、あんな可憐な少女相手に、えらく手間取りましたね? すぐ捕まえればいいでしょうに」 「安い挑発だな」 「いえ、ただ純粋に気になりまして。挑発ならもっと高額なモノにしますよ」 店主の態度は、人の神経を逆撫でするものだが、この問いは、本気で分からないといった風であった。 「当初の予定では、実験も兼ねていた。」 「実験?」 店主が聞き返す。 「危機的状況に置かれた際の、チカラの成長率の観察」 「ははあ、それで程よく成長したところで収穫、と。一石二鳥ですね」 「当初は、な」 苦々しげに呟く男。 「……決行前日、下見をした次の日から、おまけがついた」 「おまけ?」 「ああ、我々以外の追跡者が増えた」 「……ほう?」 状況にそぐわぬ無邪気さで聞き返す。 「調べてみて驚いた。なんと、"あの"尾張 兼一じゃないか、やっかいなお守りがついたものだ」 「ああはい、成る程ねえ……」 店主はどうやら得心いったらしい。 深く頷いた彼は今、生意気な少年の顔を思い浮かべているのだろう。
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