その男『かがみや』につき

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「でも、私だって、痛いのは嫌なのでね、少しは悪あがきさせて貰いますよ――っと」 目の前の店主が一瞬霞んだかと思うと、 ガン と後ろから鈍い音が聞こえた。 振り返れば、5人いた仲間の一人が前のめりに倒れる所であった。 驚愕の表情のまま目を戻すと、そこには、右手の金属バットに持たれながら、肩をすくめる店主。 「貴様……まさか、『瞬間移動:テレポート系』か!? ……いや、しかしっ……!?」 「いや? そんな事、一言もいってませんし……別にそんなチカラなんてないですよ? ただの商人ですって……」 「どこまでも……」 憎々しげに顔を歪める黒服の俺。 「そうですね、強いて言うなら……『鏡を扱うチカラ』ですかね? ホラ、当店じゃ、鏡を取り扱ってるわけですし」 何か、自分の中では、上手い事を言ったつもりなのか、くすっと小さく笑う店主。 「チィ!」 俺達の手の中で、黒い無骨な物が、口から赤い火を噴く。 「おやおや、物騒ですねぇ……当たったらどうするんですか。痛いんですよ? 実弾っていうのは」 数発の弾丸が、空間を引き裂くも、そこに店主の姿はなく、彼は空き地の隅で、わざとらしく腕を抱いてブルブルと震えていた。 笑顔で。 「そこかっ」 またしてもサイレンサー付きの拳銃が、バシュっと乾いた銃声を上げるが、それと共に姿がかき消える。 ゴッ また一人、雑草の海へ沈んだ。 「くっ……」 三人となった追跡者達は、互いの背を庇うように、三角形を描く。 てっきり、幻覚系か、肉体変化系のチカラだと思って甘く見ていた。 一気に二人も失ってしまったのも、その油断からだ。 そして、その油断がこのザマだ。 何より、一撃目が痛かった。 最初にやられた男が、テレポートやその他の『隠密:ハイド系』のチカラに対するレーダー役だったのだ。 今回は出番は無いと、端末の操作を任せていたのだ。 それが不幸にも真っ先に落とされてしまった。 だからこうして窮地に追い込まれてしまっている。 しかし、最初に殴った相手が一番相性の悪い相手とは、何と運のいい事か。
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