ようこそ『かがみや』へ

4/16
前へ
/82ページ
次へ
「え、いやあの私、鏡が欲しいんじゃなくてですね……その……友達から、ここで悩みを解決して貰えるって聞いてきたんですけど…」 少女がとても不安げな表情で答える。 「おいおい、君の友達はここをお悩み相談室かなんかと勘違いしてるんじゃないのかい? ……それにさ、言っちゃあ悪いが、お嬢さんが店を間違えてるんじゃない?」 自称店主の声に呆れが混じる 「え、え、で……でもここ『かがみや』さん……です……よね?」 少女はかなり焦った様子でそう告げる。だが、店を間違えていない確信はあるようだ。 「それはそうだが……君にはここが、鏡専門店以外に見えるのかい? ……だったらレイアウトをもう少し考えなきゃいけないんだが」 今でも充分、検討するに値すると思うが。 「だ、だって……ケンは鏡だらけで気持ち悪い店だから間違えようが無いって……あ」 言ってから少女は「しまった」とでもいいたげな表情をする 当たり前だ。自分の店を「気持ち悪い」などと形容されて、気分のいい店主がどこにいようか。 しかも先程のセリフは言外に「自分もそう思っている」と言っているのに等しい。 店主の機嫌は瞬く間に急転直下であろう。 怒った彼に「出ていけ!!」と追い出されるのは目に見えている。 それは非常にマズい。特に彼女は悩みを聞いて貰うという目的があってここに来たのだ。 追い出されてしまったら、その目的が果たせなくなってしまうではないか。 ……というよりぶっちゃけ、こんな怪しい男を怒らせたら、何をされるか分かったもんじゃない。 正直それが一番マズい。 少女はすぐさま謝ろうとしたが、当の店主はというと 「うはははははは!! これはこれは!! そうか君はケンイチ君のお友達かい!? ふは、いやはや彼の紹介だったとはね!! ふはは、そうかいやっぱり君も気持ち悪いかい!! あはははははは!!」 笑っていた。 全く怒ってないようだが、怪しい男がバカ笑いしているのも、これはこれですごく怖い。 どちらに転んだにせよ、結局のところ彼は怪しすぎた。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加