その男『かがみや』につき

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「がっ……あ……」 押さえる手、指の間から鮮血が漏れだし、どさりと草の上に倒れこむ。 黒い生地は、分かり辛いものの、みるみる赤黒く染まり、下に着ていたシャツをも鮮やかに彩っていく。 「な……にが……」 視界の先で、男が、拳銃を広い上げる。 その、今となっては旧式となったブツをしげしげと眺める男は、足元で呻く男にこう言い放った。 「やれやれ、本当に、おつむが足りないようですね」 肩口を押さえるサングラスの男を、爪先でひっくり返し、わざとらしく、肩をすくめて呆れてみせる。 「『鏡』にレーザーを撃ち込むだなんて、まったく馬鹿としか言いようがありませんね、いや本当に。治安は大丈夫なんでしょうか」 「なっ、ぐ」 「ん、なんです? その顔。まさか『レーザーこそが最強だ』なんて思ってたんですか? ……まったく、光学兵器ばかりが幅をきかせて……ビームなんざ飽き飽きなんですよこっちは」 後半は、なにやら口の中でブツブツと呟いている店主。 「な、なにを……した……貴様は……て、瞬間移動系ではなかったのか……チカラは……一つまでだろうがッ!」 最後に思わず語気を強めてしまい、痛みに顔を歪め、傷口を押さえる男。 「え? なんですソレ。そんな事一度も言ってませんけど。だから、言うなれば『鏡を扱うチカラ』かなって言ったんですよ私は。貴方達が勝手に解釈したんでしょう?」 「なん……」 男はもはや、何がなんだか分からなかった。 絶対の自信を抱いていた自らのチカラを跳ね返され、敵は、テレポート以外のチカラを使ってきたのだ。 自分の中にあった常識が、崩れていく。 「まあいいや、心配せずとも。死なせはしませんよ死なせは。今回はね」 そう言って店主は、懐からなにやら小瓶を取り出し、その中味を、男の傷口にぶちまけた。 「あがああああああっ!!」 傷口から怪しげな煙を発生させながら、焼けるような痛みにのたうつ男。 しかし、その反応に反して、傷口はシューシューと音を立てながらも、みるみる塞がっていく。 「はあっ……はあ……なんだ、これは……」 「さあね、企業秘密ってやつです」
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