その男『かがみや』につき

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「ふん……あいにくと、買い換える予定はないんだが」 小馬鹿にしたように、されど鋭く睨みつつ、男は拳銃で先を催促する。 「いえいえ、今回は少々、特殊なケースでして。……一人の少女についてなのですが、お心当たり?」 「……さぁな」 惚けてはみたものの、細められた目が雄弁に物語っている。 店主は、やれやれといいたげに首を振ると、少しばかり真剣な面持ちでこう言った。 「……単刀直入に言いましょう。『端間 里香』から手を引いていただきたい」 「対価は?」 「悪意のレーダーだろうが、犯罪探知機だろうが、なんなりと」 しばし、両者を沈黙が包む。 「……断る」 「おや、何故です?」 「まずもって我々は、その人物に対し、なんら関与していない」 椅子にもたれながら、半眼でそう告げる男。 店主は一瞬、心底意外だとでも言いたげに目を見開いたが、ニマリと口の端をいやらしく釣り上げた。 「……おやおや……おやおやおや? 困りましたねぇ~これは」 「あ?」 「私、常々お客様方とはクリーンな信頼関係を築いていきたいと思っているのですがね、その上で、そちら様がそういった対応をなされると、どうも、商談に支障が」 眉を寄せ、困り顔をつくる。 「……ほぅ、私が嘘を言ったと、そういいたいわけかね」 「ええ、まあ。誠に心苦しいのですが」 店主の顔は、苦笑いなのか、半笑いなのか、なかなかに判別が難しい。 「そうか、ならば証拠でも提出してもらおうか。……できなければ君、立派な名誉毀損だよこれは」 「ええ、ええ。それは勿論でございます」 店主がそう言って懐から取り出したのは、見る者が見れば、それと分かるテープレコーダー……小型の録音機だった。 カチリと、店主が指で突起を押し込めば、そこから、男性の会話が流れ出す。 内容は、とある少女を、秘密裏に確保せよ、というモノ。 それに了承の意を返したのは、どこか聞き覚えのある冷たく無機質な声で。 頼んだぞ、と釘を差したのは、椅子から立ち上がった男の口から発される物と、非常に似通っていた。 「貴様ッ! それをどこでッ!!」 カチッと小さな音と共に、極秘の会話は打ち切られた。
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