ようこそ『かがみや』へ

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「あ、あの……」 「いやいや、これは失敬。突然笑い出したりしてすまないね……なんせケンイチ君を思い出してしまって……ぷっ、ああダメだ。ツ、ツボったははははは」 今、少女はこの店から追い出された方が良かったんじゃないかと思っているに違いない。 顔にそう書いてある。 だが早く話を進めたいとでも思ったのか、またしても彼女は口を開いた。 「その……ケンの事覚えてるんですか?」 この問いに対して、店主はなんとか笑いを抑えて言う 「ははくっひっ……ふぅ……いやいや、覚えてるもなにも、店に入っての第一声が『なんだここ、鏡ばっかで気持ちわりぃ!!』だったからね。あんなにストレートな感想を言われるとは……そりゃ印象にも残るさ。それにぷっ、依頼も依頼だったしね……くくく……あんな珍しい依頼はなかなか……いや、内容は彼の名誉の為にも伏せておくがね……くふっ」 どうやらケンイチ少年の依頼内容が店主のツボに大層ハマったようだ。 内容が気になる所だが、彼の名誉の為である。仕方ない。 「ふぅ……試すような事を言って悪かったね。お嬢さんが、変な噂でも聞いて来たんじゃないかと思ってさ。基本この店をわざわざ訪ねてくる客はいないんでね。」 少女は自分が異例だと言われて若干とまどう 「いやいや、経緯はどうあれ、君がこの店に来た時点で悩みを聞くつもりではあったんだよ? 心配しなくても大丈夫さ。ほら、どうぞ座って」 そういって店主は自身とはカウンターを挟んで対面の座席を少女に勧める 「は、はあ…」 とりあえず悪いようには進んでいないと判断したのか、彼女も勧められるがままにその低めのカウンターへと腰をおろす。 流石にここの周りにまで鏡が敷き詰められている訳ではないようで、店主の後ろに大きく立派な姿見が一つ、布を被っているのみだ。 そして、木製とおぼしき古めかしいカウンターと座席は、なんだか暖かみをかんじさせる。 店の薄暗ささえも、慣れてしまえば、ムードがあるといえなくもない……かは分からないが、少女にとってはもう、ちっとも気にならないようだった。
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