その男『かがみや』につき

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「いえいえ、そう否定なさる程、たいしたモノではございませんよ」 「なに?」 「だってこんなの、いつかは誰かが実現するでしょう? あなた達だって、研究材料さえあれば、数年もかからず作れますよ、その一番簡単なモノならね」 男の手の中の端末を、店主が指差す。 確かに、チカラの行使を探知するというのは、以前から言われていた事だ。 それこそ、どこかの少女を調べれば、基礎くらいはすぐに作れるだろう。 「それはそうだが、しかし」 「なあに、今回の貴方達は失敗しましたけど、別のとこじゃあ、成功してるのもいるってだけですよ」 「なに!?」 自分達と同じ手を、それも先を越されていたという事実。 充分に衝撃的だった。 「まあ、これ以上は……仕入れ先も商人の生命線なのでね。特に僕みたいなのにとっては」 果たしてこの男を商人と言ってよいものか。 それは分からないし、知る必要もない。 「なら……その最新式の方を試したいのだが?」 「ええ、構いませんよ」 背広の男は、店主曰わく旧式の端末を机に置き、店主は、より高性能との触れ込みのソレを客へと手渡す……直前。 その手が止まる。 「……しかし、仮にも最新式ですので、追加料金……と言ってはなんですが、一つ聞いても?」 「……内容如何による」 こちらも手を伸ばしたままの姿勢で、答える男。 商品に、支払う代金が釣り合わなければ、求める商品のグレードを下げるのは当然だ。 「なら……どうして今回のような手を? 彼女が卒業してからスカウト、もしくは協力を仰いでも良かったではありませんか」 本来は犯罪を取り締まる側による拉致計画。 暴走と言うべき、この一件は、多大なリスクを背負いながらも何故、決行に踏み切られたか。 成人した少女の進路はまだ決まっていない。 ならば彼女の意思をそちらへ傾ければ良かったのに。 「……遅い、それでは遅過ぎるのだよ」 「遅い?」 「それでは、あの狸に対抗できない」 「……ああ、なる程。そんな事でしたか」 狸……あの白髪混じりの顔を思い出すだけで腹が立つ。 ここ最近、なにかと活躍目覚ましく、事ある事に目障りなあの爺。 ……といっても、それほど歳は変わらないのだが。 つまるところ、彼は自らの地位を脅かすライバルに対抗するため、大きな手柄が欲しかったのだ。 ……勿論、捜査の効率をより高める目的もあったが。
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