その男『かがみや』につき

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それを聞いた店主は、口の中で何やらもごもご言っていたが。 「……ま、僕が言えた事じゃないか」 と、自己完結めいた台詞を吐いた。 「……ところで」 「はい、何でしょう?」 客の質問に対し、丁寧に聞き返す。 「これはもう、私の手の中にあるわけだが……契約成立後に、我々が彼女に手を出したら、どうするね?」 「あ、なる程なる程。その手がございましたか。ああこれはしまったしまった」 ぱん、と手を打ち、うんうんと頷く店主。 「そうですね……そうなりますと私、あまりのショックに、うっかり指が滑ってしまうかもしれません」 言いつつ懐から、先程の録音機を取り出し、震える指で押し込んだ。 今度は、今までの商談内容が朗々と繰り返される。 つまり、これが全て世間に流れると言う事だ。 ライバルの牽制どころではない。 「……と、契約内容のご確認もしていただきましたところで、色よい返事を期待したいのですが」 「……」 背広の男は、両の目を瞑り、しばし沈黙していたが突然、机を力強く叩くと、諸手をあげて、降参とでもいいたげに椅子に全体重を預けた。 「ああ! 分かった! 参った! それがお互いにとって最良の選択肢だろう。ただ、契約は守ってもらうぞ?」 「ええ、もちろん。商人は信用第一ですから」 満足げな笑みを浮かべて、頷く店主。 そして、徐に差し出された手に首を傾げる。 「……おや?」 「……む、こういう時は握手ではないのか?」 「ああ、ああ! そうですね。商談成立と言えばね、いやはや失礼しました」 お互いがお互いをしっかりと握り交わす。
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