その男『かがみや』につき

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「ああ、心配せずとも、殺しはせんよ、殺しは。今回はな。君には聞くべき事が沢山ある」 そうして、男は、店主の首へと手を伸ばし…… スパァン 小気味よい音と共に、背広の男はたたらを踏んだ。 「……な」 「……ふふ、何をされたか分からない。と言ったところですか?」 彼の瞳に写ったのは、右手を振り抜いた姿の店主。 つまりは、握手に差し出した手をそのまま叩きつけただけの平手打ち。 しかし、男は完全に油断していたため、不意をつかれた。 動くはずがない、そう思っていた。 「失礼、あまりに貴方の手つきがいやらしかったもので……私に、そう言った気はございません」 「ふ、ふざ……げふぅっ」 鋭い蹴りが、男の、最近気になり出した腹に刺さる。 「う、ぐっ……」 反撃しようと、腰に手を伸ばすが、指が虚しく空をきる。 彼が頼ろうとした黒光りする無骨な相棒は、彼がじしんで、机に置いてしまっていた。 張り手と蹴りによって机から引き離された男には、頼るべき武器が掌だけになってしまったのである。 その僅かな隙に、店主が一気に距離を詰め、強烈な右拳が頬を打ち抜き、革靴が男の頭を踏みつけた。
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