その男『かがみや』につき

22/25
前へ
/82ページ
次へ
「ぐ……な、なぜ……なぜだっ!?」 「やれやれ……ついさっき鏡に向かって、力を過信するなと、自己暗示していたのは貴方ではありませんか」 「な、なにを訳の……っ!?」 そして男は理解した。 店主の言動、この部屋に突然現れたこと、そして、部下のあの男と連絡がつかない…… 「『鏡』かっ!?」 「御名答~」 彼のチカラは、触る場所により効果が変わる。 そして、鏡に写る姿は…… 「反転するッ!!」 「やれやれ、貴方のせいで汗だくじゃないですか、発汗マッサージなんていりませんよ」 「き、貴様ッ……」 「そういえば昔、漫画にこんなキャラがいましたねぇ……そうだ、営業方針はこうです」 ニヤリと笑って。 「値引きます。媚びます。顧みます。ただし当店に返品の二文字はございません……ってね」 何が可笑しいのか、ふふっと洩れる笑み 「ああ、この場合は正当防衛でいいんですよね? 過剰防衛なんて知りませんよ、ええ……あっと、それだと席が空いてしまうのか……」 ふむ、としばし逡巡したあと。 「そうそう、後任はあの人でいいかな……白髪混じりの有能そうな人がいましてねぇ……貴方よりは良さそうだ。なんせ彼の上司だし」 そうして、拳を振りかぶる。 しかし、男も諦めない。 「うらああああ!!」 起死回生を図り、店主の左の膝から少し下の辺りを掴む。 本来は右足の、このスポットは、全身の痙攣を引き起こす。 少なくとも立っていられない。 しかし。 男の鳩尾は強かに打ち据えられ。 コヒュと息を吐いた男は、意識が沈む、その一瞬。 確かに一つ賢くなった。 なぜなら。 「鏡が変えるのはね、『左右』じゃない。……『前後』なんですよ」 ――――――――――
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加