その男『かがみや』につき

23/25
前へ
/82ページ
次へ
カランカランと、ドアの鐘が鳴る 「ふぅう、疲れた」 開いた扉から洩れた光が、店内に反射すると、シルクハットを揺らしながら、紳士服の男が、入ってきた。 「あ、鑑さん! 早かったですね」 カウンターに腰掛けた少女は今、よほど気に入ったのか、自分のカップに二杯目の紅茶を注ごうとしていた。 「ああ、リカちゃんただいま。」 「えっと……どうでした?」 先程、少女の話を聞き、ひどく憤慨した様子の店主が「ちょっくら懲らしめてくる」と息巻いて出て行ってから、約二分程。 えらく早業だ。 逃げられてしまったのだろうか。 「うん、麻酔銃で脅したら、何人か気絶しちゃった」 「そ、そうですか……あ、鑑さんのぶん、つぎますね」 「ああ、頼むよ」 カウンターの中で、だらっと椅子へ体を預け、ふうぅ~と息をつく。 「どうぞ」 「ありがと。……ん、やっぱりいいね。このお茶」 「はい、私もすごく気に入っちゃいました! これを飲むと、とても落ち着いて、ついさっきまで怖かったのが嘘みたい」 「そうかい、ならたんとお飲み。もう、ここへ来る事もないだろうから」 「えっ……?」 少女が、カップを口につけかけたまま、目を見開いて静止する。 「何を驚く事があるんだい? もう君が不安な思いをする事もないんだし。依頼は終了さ」 「え!? ほ、本当に!?」 ガタッと少女が立ち上がる。 「ああ、きっちりO☆HA☆NA☆SIしたからね」 「う、うう」 少々……いや、かなり悪い顔で言う店主に、引いてしまう。 まあ、今のは冗談だとしても、何かしらの手は打ったのだろう。 でなければ、依頼そのものを終了とは言えない。 「勿論、一週間くらい様子見して、大丈夫だと思ったらもう一度おいで。僕も結果は気になるからね」 「はい!」 タタッと駆け出した少女に店主が声をかける。 「そうだ、外に彼が来てるだろうから、送っていってもらいなよ」 「え? えっと……」 「ああ、ちょっとばかし薬臭いかもしれないけど、気にしないでやっておくれ。僕が用事頼んじゃったから」 「……?」 「気をつけてお帰り」 「……はい!」 ドアの鐘が鳴った。 ――――――――――
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加