その男『かがみや』につき

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「あの……それで……」 「どうしたんだい?」 「お礼を……」 少女が、もごもごと口ごもる。 上手くいけば儲けもの、程度の気持ちだったのに、ここまで見事に解決して貰ったのだ。 安全は兼一少年のお墨付きである。 そんな仕事に一銭も払わないなんて事が許されるのだろうか。 しかし、どんなに寄せ集めても、彼女の財布の中身は、1万合にも満たないのだからしょうがない。 「ああ、別に構わないさ。もともとそういう契約だったし、僕もいい暇潰しになったしね」 「でも……」 「それに、僕が『売る』のは、あくまで鏡だけだ。それ以外で、お金を受け取る気はないよ。……取引はするけどね」 一応、商売人としての矜持らしきものがあるらしい。 よく分からないが。 「それだと私の気が……」 「そうかい……」 店主は紅茶を一口。 「そうだな、だったらこうしよう。君は、うちのサービスを気に入ってくれた訳だ」 「は、はい……?」 「そういうお客はだいたい、なにか買っていくものさ……違うかい? 今なら、少しおまけするよ?」 「あ……はい!」 店主の提案を理解した少女は、晴れやかに笑うと、たたたと店内を物色する。 「これ下さい!」 しばらくして、少女がカウンターに持ってきたのは、かわいいピンクのコンパクトだった。 それは先程、店主に返した秘密道具と、よく似たデザインをしている。 「流石はお目が高い。して、お客様、御予算の方はいかほど?」 「え、えっと……七千五百合……いや、八千合あります!」 「なら、良かった。そいつは二千合だ。なかなかいい出来だったからね」 「ありがとうございます!!」 「毎度あり」 手の中のコンパクトを眺めつつ、少女は幸せそうに微笑んだ。 なかなか良い買い物だったらしい。 「ありがとう鑑さん! 今度はケンも連れてきますね」 「……さあ、それはどうだろう」 「……?」 「ふふ、いやなんでもないよ……そうだね、もし君が、本当に鏡を欲したなら、その時は……またのご来店をお待ちしております」 「はい、ごきげんよう」 少女は笑顔で手を降り、店主もせれに応える。 カランカランと、鐘がなった。
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