鏡と偽善と兄弟と

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カップを傾けた男の眉が、跳ね上がる。 「……えらく渋いな」 「おや、お口に合いませんでしたか?」 「……いや、これでいい。俺は、このくらいが好きだ」 男が紅茶を一口含む度に、眉間に固く刻んでいた皺を浅くしてゆく。 かちゃんと音を立て、カップが再び戻された時、血走っていた男の目にも、幾ばくかの落ち着きが戻っていた。 「ん…………この紋章の意味するところ、だったな確か」 「ええ、ご教授いただけますか、出来うるならば貴方のお名前から」 「ああ……そうだな。俺はツヴァイト……ドゥーエ・ツヴァイトだ。雷凰騎士団二番隊の隊長をやっている」 「雷凰……?」 「ククルツォルの事だ……まさかそんな事も知らないのか?」 再び、驚愕と呆れの表情を作ったツヴァイト。 顎に手を当て、何か考え込みながらも、もう片方の手で彼の空いたカップへと二杯目を注ぐ店主。 「ククルツォル……ククルツォル……ああ!! 確か雌しか居ないっていう、あの!」 「……それくらい常識だろうが、何を得意げに」 「いやいや、なる程ねぇ……そうか、常識なんですか……ふふふ」 店主は、ツヴァイトの指摘に、何かとても面白い事を聞いたかのような笑みを返し、そう呟いた。 「な、なんだ突然……気味の悪い」 「いやいや、失礼。まあ、よく言われますがね」 はははと笑う店主の目は、虚空を見つめ、なにかの感傷に浸っているようにも見えた。 しかし、ツヴァイトはそんな事に気付かず、すっかり気に入った濃いめの紅茶を楽しみながら、話を進める。 「で、この紋章がその雷凰騎士団の紋章という訳だ。本当に知らないのか?」 「ははあ、なる程……まあ、言われてみれば似てなくもないか……もっと嘴が長くてもいいと思いますがね……これじゃ可愛いすぎる」 「どうせ本物を見た奴なんざいないんだ。個人の意見なんざ知ったことか。そういう事はこれを描いた奴にいってくれ」 「はあ……そうですか」 ツヴァイトの言葉に店主はほんの少しだけ寂しげな表情をした。 彼の対応が、少しばかり冷た過ぎたせいかもしれない。
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