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「……なる程、わかりました」
店主は二度、神妙な顔で頷くと、カップを置いた。
そして、あたかも、たったいま思いついたかのような、軽々しい口調で、こう切り出した。
「そうですね、私が力をお貸ししましょう」
「…………なに?」
ツヴァイトは、店主の言葉を理解するまでに、ほんの僅かではあるが、時間を要した。
それもそうだ。
なぜなら……
「たかが一介の鏡売りが何を! それも、貴様のような奴がか!? 一体、何になるというのだ!! だいたい、貴様なぞに協力を求めた覚えはない!」
例え、二番隊だろうがなんだろうが、名誉ある雷凰騎士団の隊長を務める者が、たかが商人、それもかなり物を知らない男の助力を受ける。
そんな事は本来ありえないし、彼の矜持が許さない。
なにより実際、役に立ちそうにないのだ、目の前の男は。
それなのになぜか上から目線。
まるで自分が協力さえすればすぐにでも解決するとでも思ってるかのような口振り。
とかく、店主の発言は、彼にとって屈辱以外の何物でもなかった。
当然、彼はカウンターを叩くようにして立ち上がり、とてつもない形相で店主を睨みつける。
騎士団員として、それなりの修羅場を経験してきた彼が憤っている様は、ただでさえ威圧感のある日頃より増して、さらに迫力があった。
もしも、これで詰め寄られているのが、市井の者であったならば、碌に返事もできなかっただろう。
それこそ、気の弱い者は卒倒してしまうかもしれない。
しかし、今回はそうではないのだ。
「そう、それですよ。……ハッキリ言って貴方、向いてませんね。とことん向いてない」
「なんだとっ!!」
ついに我慢の限界に達したのかツヴァイトが店主の胸倉を掴み上げた。
ピシッと着こなされた燕尾服が無様に乱れる。
それでも、店主の顔は不遜な態度を崩さず、それどころか、服のシワを気にする始末。
「まったく……短気は損気とは、よく言ったものです。高圧的でプライドが高い上に思いこみも激しく、逆上しやすい……ついでに説明が下手。ホント、朝からなんの成果も無いというのも頷けますね」
「う、ぐ……」
一部、自覚はあるのか、はたまた自制心が残っていたのか、思わず握りこんでいた拳をほどき、店主を解放する。
「やれやれ、高いんですよ? コレ」
そんな事を呟きながら服の乱れを正す。
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