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「ま、今はそんな事どうでもいいとしまして」
「……」
「2日前の妹さんの行動が分かりますか?」
「……」
男が渋い顔で視線を逸らす。
それを見た店主は、いやに納得顔で肩をすくめる。
「でしょうねぇ……」
「……面目ない」
「妹さんにね」
店主はもはや呆れる事すらしようとせず、自らの淹れた紅茶を優雅にすすった。
「アナタがとにかく、ただただ向いてないのは、つくづく分かりました。……でも、心当たりすらナシですか?」
「いや……あるには……ある。いや、あった」
「ほぅ?」
不肖の兄が絞り出した声に、興味深そうな声が帰ってきた。
「実は2日前、俺は家に帰る予定だったのだ。トゥーンにも伝えてあった」
「……なる程。……いやはや、騎士団長というのも、なかなかに忙しいんでしょうねぇ……心中お察ししますよ」
後に続く展開が読めたのか、先回りした店主が哀れな責任者を労う。
「あ、ああ……貴様の言う通り、少し問題が発生してな。それに駆り出された」
「……実は、あんまりなお兄さんに、愛想尽かして出ていっちゃったんじゃありません?」
確かに、こうして客観的に見てみれば、今回の自分の諸行もあんまりだが、店主の言葉もあんまりだ。
ツヴァイトはそう思ったが、反論の観点は全く別のものだった。
「いや、それならいい……いや良くはないが、恐らく違う……」
「へぇ……根拠は?」
「その、俺が駆り出された問題が問題だ」
言いつつ、再び湧き上がってきた焦りが、彼の体をくすぐり、唇を渇かし、三杯目の紅茶を要求させる。
「知って通り、最近、この辺りで若い娘が何人か消えている」
茜色の水面に映る、ひどく憔悴した顔の男が、そう言い切って面を上げれば、趣のある椅子へ腰掛け、足を組み、静かにカップを傾けていた紳士はどこにもおらず、背もたれへと崩れ落ち、そのまま無様に身を預けた男の、先程まで気障ったい笑みが浮かんでいた場所を、白い手袋が覆っていた。
「……そういう事は、もっと早く言いましょうか」
「そうか、貴様は本当に何も知らなかったのだな。……無知とは恐ろしいものだ」
「なんで、アナタが、上から目線でほざいてくれやがってんですかねぇ……?」
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