107人が本棚に入れています
本棚に追加
店主はすぐさま座り直し、男に向き直った
「待ってくださいな。騎士団が動き出したのが2日前という事は、最初の届け出は何週間前です?」
「言っておくが、それは嫌みでもなんでもないぞ。なんせ、団長自身が言っていたからな……3週間前だ」
「……で、妹さんは2日前……か……とても紅茶飲んでる場合じゃあありませんね」
「だから俺は、はじめにそう言った」
ツヴァイトは、その相槌によって、己の中で焦りがさらに膨らむのを感じたが、『おお、そうでしたね』などと感心する店主を見ている内に、不思議と頭だけは冷静でいる事ができた。
なんだか自分だけいらいらしているのが馬鹿らしくなったのだ。
そして、そんな暇があったら解決のために頭を使った方が有意義なのでは? と気付く。
果たして、異常な速度で立ち直った店主が、未だに本気で解決する気があるのか、という点は甚だ疑問だが。
むしろ開き直ってはいまいか、この男。
「……それで? 心当たりが『あった』んですよね」
「ああそうだ……だから、つい1ヶ月前に開店したばかりの飯処へ行った」
「……ほほう」
「えらく人気でな。トゥーンが行きたがっていた」
淡々と報告するツヴァイトを、まるで信じられないものを見たような顔で……いや、実際に店主は信じられものを見ているのだ。今。
「……訂正しましょう。貴方は別に、てんで駄目という訳ではなさそうだ」
「あまり舐めるな」
フン、と鼻を鳴らしたツヴァイトは、顔にでかでかと、『してやったり』と書いてある。
「それでそれで?」
「……何も無かった」
「……」
静寂。
「……やれやれ、言葉につける修正液というが、無いものでしょうかねぇ」
「どういう意味だ」
「ああ、分かりやすく言うと、つい今し方の僕を、雷凰の尻尾で一撫でする必要があるって事ですよ」
「馬鹿にするのも大概にしろ!!」
尻尾で一撫でしたいのは、なにも店主だけでなく『頭だけは冷静で……』などと言ったばかりの彼もまた、同じらしい。
最初のコメントを投稿しよう!