鏡と偽善と兄弟と

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店主はすぐさま座り直し、男に向き直った 「待ってくださいな。騎士団が動き出したのが2日前という事は、最初の届け出は何週間前です?」 「言っておくが、それは嫌みでもなんでもないぞ。なんせ、団長自身が言っていたからな……3週間前だ」 「……で、妹さんは2日前……か……とても紅茶飲んでる場合じゃあありませんね」 「だから俺は、はじめにそう言った」 ツヴァイトは、その相槌によって、己の中で焦りがさらに膨らむのを感じたが、『おお、そうでしたね』などと感心する店主を見ている内に、不思議と頭だけは冷静でいる事ができた。 なんだか自分だけいらいらしているのが馬鹿らしくなったのだ。 そして、そんな暇があったら解決のために頭を使った方が有意義なのでは? と気付く。 果たして、異常な速度で立ち直った店主が、未だに本気で解決する気があるのか、という点は甚だ疑問だが。 むしろ開き直ってはいまいか、この男。 「……それで? 心当たりが『あった』んですよね」 「ああそうだ……だから、つい1ヶ月前に開店したばかりの飯処へ行った」 「……ほほう」 「えらく人気でな。トゥーンが行きたがっていた」 淡々と報告するツヴァイトを、まるで信じられないものを見たような顔で……いや、実際に店主は信じられものを見ているのだ。今。 「……訂正しましょう。貴方は別に、てんで駄目という訳ではなさそうだ」 「あまり舐めるな」 フン、と鼻を鳴らしたツヴァイトは、顔にでかでかと、『してやったり』と書いてある。 「それでそれで?」 「……何も無かった」 「……」 静寂。 「……やれやれ、言葉につける修正液というが、無いものでしょうかねぇ」 「どういう意味だ」 「ああ、分かりやすく言うと、つい今し方の僕を、雷凰の尻尾で一撫でする必要があるって事ですよ」 「馬鹿にするのも大概にしろ!!」 尻尾で一撫でしたいのは、なにも店主だけでなく『頭だけは冷静で……』などと言ったばかりの彼もまた、同じらしい。
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