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「どんな風に調べたのか、お聞きしても?」
「とりあえず、捜査令状を持って、隅から隅まで調べ尽くした。それでも手がかりはなにも無かったんだ。……キッチンの食材入れにあった肉が、本当に鶏肉ならな」
「貴方ソレ、自分で言ってて怖くないんですか?」
「……」
いろいろと言いたい事のある捜査法だが、店主はあえて、違う突っ込みをいれた。
ただ、彼は別に冗談で言ったのではなく、その可能性ぐらいしか考えられない結果だったから、そう言ったまでなのだが……
彼の頭が、その仮定と、妹を関連付けるなど有り得なかった。
そんな事は端から無意識下で除外されているのだから。
「あとは一週間前に来た雑技団も調べてはみたが、可能性は低いな。なにせ最初の案件から、遅すぎる。それに規模が小さく、何か隠してもすぐ分かる」
半ば確信を持って述べるツヴァイト、しかし、それに店主は首を振る。
「いや、分かりませんよ? もしこれが奴隷目的の誘拐だったとして、その雑技団が関わっている可能性は大いにあります」
「なぜだ?」
「ある程度、商品が集まったところで、その雑技団が回収、公演終了と同時にスタコラととんずら完了……雑技団がいなくなっても事件は続く、されどその人数を仕舞う程の場所が見つからない、と」
「む……それは盲点だった……」
つらつらと考えを吐き出す店主に返事をしつつ、ツヴァイトはひどく感心していた。
先程は頭に血が登っていたせいか、『役に立たなさそう』などと思ったが、とんでもない。
己だけでは、到底考えつかなかっただろう。
魔物の習性と対処法ならば、ほぼ頭に入っているが、こういった七面倒臭い事を考えるのはもともと門外漢なのだ。
盗賊共の頭は、こんなに小狡い策を練れるほど高尚なつくりをしていないし。
なので、頭脳労働など、普段はもっぱら副長に任せきりだ。
確かに自分は向いていない。
「ま、正直あまり現実的な案でもありませんがね。あくまで、可能性を否定するのは下策だと言いたかっただけです」
「……そうなのか」
「時と場合でしょう。ただ、貴方の戦場では、理屈をこねくり回す暇は無かっただけの話ですよ。ひたすらに眼前の敵を斬り捨て続けるのも、なかなかに才能が必要ですし。……少なくとも、僕にゃあできません」
そう言って店主は苦笑した。
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