ようこそ『かがみや』へ

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「あ、はい、いただきます」 そういって紅茶を口にする少女。 「あ……おいしい……」 目を見開き、思わずといった様子で感想を漏らす。 「ふふん、気に入っていただけたようだね」 「ええとっても……とっても不思議な味……すごく新鮮で……でもどこか懐かしい……」 少女がうっとりとした表情で返す。 「おお、君もかい。奇遇だね、僕の感想もそんな感じだったよ。……もっとも、そう言ったのは君で三人目だがね」 「三人目……ですか」 「そう三人目。僕は大抵のお客さんにこの紅茶を出してるんでね。」 カップを回しながら店主が答える 「ま、人によって感じ方は違うみたいなんだ。甘かったり酸っぱかったり。切ない味だなんて言う人もいれば、愉快だと評する人もいる。中にはきっぱり『マズい』と言った人もいるよ、ケンイチ君みたいにね。本当に不思議な味さ」 そう言ってまた一口。 「へぇ……この紅茶、なんていうんですか? 家でも飲みたいな……なんて」 「ああコイツは……いや、やめとこう、僕もそれほど紅茶に詳しい訳じゃないんでね。……というより、ちょっと旅先のお宅でいただいたのがあんまり美味しかったもんだから、茶葉を少し分けて貰っただけなんだよ。多分、自家製ブレンドかなんかじゃないかな。だからお取り寄せとかも無理」 少し申し訳なさそうに店主が告げる 「そうなんですか……」 「君にも分けてあげたいけど……あいにくここは紅茶屋じゃないんでね」 「えー、そんなぁ」 残念そうな声をあげる少女 そんな彼女を尻目に優雅にカップを傾ける店主。 それを見て交渉は無駄だと悟ったのか少女も二口目をすする。 紅茶のカップを持つその様は、店主の服装自体にはマッチしていると言えるだろう。 しかし怪しさは変わらない。 そんな彼は紅茶を飲み干し、コトンと音をたてカップをおろすと、少女に向き直った。 「さて……ケンイチ君の彼女は一体何に困ってるのかな?」 「ブッ!!」 彼女の吹き出した紅茶が、辺りに飛び散った。
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