鏡と偽善と兄弟と

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「ま、こうして話をしていたって、仕方ありません。時は金なり。汝立ち止まる事なかれ。私はさっそく仕事にとりかかると致しましょう」 「……そうか、ではまずどこへ行くのだ?」 ツヴァイトはそう聞くと、手元の紅茶を一気に飲み干す。 そして、そのカップをチャカチャカとしまいながら店主が答えた。 「んーどうでしょう。それは相手しだいといいますか……というか、まさか貴方ついて来る気ですか?」 見れば、男は立ち上がり、甲冑の具合を確かめている。 店主の問いを聞いた騎士は一度、短く肯定の言葉を返し、それからしばらくして『まさか』という表情をした。 「違うのか?」 「当たり前でしょう。いつ一緒に行くと言いました?」 「いや、力を貸すと……」 「……もういいですから……貴方は私が呼んだら、部下でも連れて応援に来てくださいよ。これ渡しときますから」 そうして店主は呆れと諦めの混じりあった吐息を洩らし、懐から、一枚の鏡を取り出す。 その鏡には、脚がついており、立てかけられるようになっていた。 「俺には必要ない。買う気もない」 「いやいや、商品じゃなくてですね……」 一度映った自分の仏頂面に、全く興味が無い……と、ツヴァイトがすぐさま視線を逸らすが、その先でも、小窓から覗く、眉を顰めた己の顔。 「確かに商売道具なんですが……ほら、連絡手段ですよ」 「……連絡?」 最後までは言わなかった男だが、ちらりと向けた瞳が、続きを語り、嘲笑する。 「これを貴方の机……騎士団の副隊長ならそれくらいありますよね? それのよく見える場所に置いておいて下さいな。そしたら、私からの手紙が届くと思うので」 先程までは半眼だった彼の瞼が、店主の説明により、大きく見開かれた。 「……ほう、これは驚いた。貴様の店は、魔道具も扱うのか」 「いえ、これには特に……いや、そうですね、そんなモノです」 店主は何かしらの説明を挿もうとしかけたが、それで通す事にしたらしい。 大方、面倒臭くなったのだろう。 こいつはそういう男だ。 そう思ったツヴァイトも、なかなか目の前の、ふざけた存在に慣れてきたようであった。
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