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「ならば俺は行くとしよう……アテはあるのだろうな?」
「ええ勿論」
「そうか。……これは一つ参考に聞くんだが……」
出口に向かったブーツを止め、体をひねる騎士。
「探しても見つからなかった物をどうやって見つける気だ?……俺はどうすれば良かった」
カウンター裏のカーテンを潜ろうとしていた店主が、顔だけ残して頷いた。
「ああ、貴方の場合はまず、探し方が拙いんですが……それよりもっと簡単な方法がありますよ」
「なに?」
「教えて貰えば良いんですよ。……本人にね」
軽く言い切った店主の軽薄な笑みが、布地の裏側へと消えた。
―――――――――――
顔を出した太陽が新たな始まりを告げ、路地へ乱雑に詰まれた木箱の影で、野良猫があくびをする。
街の住人達も、みな思い思いの活動を始め、主婦が桶を片手に井戸へ向かう途中で、大きな槍を担いだ男とすれ違い、道を行く男の足元にしゃがみこんだ少年が、一心不乱に地面をキャンパスにする隣へ、露天商が敷き布を広げた。
そんな、日常の朝。
道なりに並んだ、大小様々な家々の扉が一つ開き、中から一人の少女が現れた。
薄い灰色の髪は、朝日を反射し、銀にも見え、滑らかな髪質も相まって、さながら上等な銀糸の如し。
ブルーの瞳は、青空を写しこんだように澄み渡り、肌は白磁のように滑らかであった。
深窓の姫君のような彼女はしかし、地味で素朴な庶民の服に身をやつし、寂しげに辺りを見渡している。
その実、彼女は世間一般で言うところの庶民なのだから仕方ないのだが。
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