鏡と偽善と兄弟と

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「そうか……そうだったら助かったんだがなあ……」 「は、はあ……」 巨漢が大きくため息を吐くと、それだけでトゥーンと少年の前髪が踊る。 「いやな、このボウズがチケットも無いのに入れろとうるさくてなあ。……どうやらウチの誰かの身内らしいんだが……」 大男が名を尋ねると、少年は元気な声を張り上げた。 「ぼく、ギャリス!!」 「これしか言わねえ……なあ、お兄ちゃんってのは誰なんだ?」 「お兄ちゃんたちはお兄ちゃんたちだよ?」 「だから! ウチには兄弟なんてソシャルパーティーが開ける程居るんだよ!」 「ヒッ! ……う、ううっ……」 「あ、いや違うそうじゃなくてだなボウズ泣くんじゃない」 そうして慌てる彼は、あからさまにお人好しの類であると分かるが、彼のあげる大声は子供の恐怖心を刺激してやまない事だろう。 人は見かけによらない。 しかし、見かけも重要なのだ。 ……特に子供には。 みるみる涙を溜めていく少年の頭へ、ふわりと優しい手の平が置かれる。 「ふぇ」 「ねえギャリス君、お兄ちゃん達からチケットを貰ってないかな?」 「ううん……だって『いつでも見にきてくれ』って言われたから……」 「あー、そりゃなボウズ。言葉のアヤって奴で……」 大方、話題の彼らとしては、少年は家族と共にチケットを買って来ると思っていたのだろうが、純真なギャリスは言葉通りに受け取ったのだろう。 よもや、単身手ぶらでやってくるとは思うまい。 男が、その可愛らしくも残酷な真実を告げようとしたところ、微笑みをたたえた少女がそれを遮った。 「大丈夫、ギャリス君のチケットはここにあります」 少女の手には二枚のチケット。 「お、おう……確かにチケットさえありゃあ、こっちは気にしねぇんだがな……そいつは嬢ちゃんの……」 「それが、来られなくなっちゃいまして」 トゥーンの苦笑に、男の眉が申し訳なさそうに下がる。 「そうか、そいつぁ残念だな……」 「でも、そのお陰で……ねぇ、ギャリス君。お姉ちゃんと一緒に見る事になるけど、いい?」 「えっ!? ぼく、はいれるの!?」 「ボウズ、そこの嬢ちゃんに感謝しろよ。優しいお姉ちゃんがいて良かったな」 「うん! ありがとうお姉ちゃん!!」 この少年に、こんな笑顔を咲かさせる事ができたなら、先ほどまでの憂鬱も、少しは報われるような気がした。
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